この記事は、車中泊関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、全国各地からセレクトした「クルマ旅にお勧めしたい100の旅先」の紹介です。
旅行者が知りたいのは、リアルでスマートな奥入瀬渓流の観光法
奥入瀬渓流が美しいのは、もう誰もが十分にわかっている(笑)。
映像・雑誌・ウェブを問わず、ありとあらゆる奥入瀬渓流の観光ガイドには、プロカメラマンが時間とお金を費やして撮影した、「息を呑むほど美しい写真」が掲載されている。
ただ、作る側は自分たちの作品しか見ないかもしれないが、旅人は「本当に知りたい情報」を探す中で、何度も似たりよったりの写真ばかりを否応なしに見せられている。
そして、実はもうそれに感動するどころか、辟易している…
少なくとも、10余年前の筆者はそんなふうに感じていた。
僕らは上等なカメラでしか撮れない絶景よりも、リアルでスマートな奥入瀬渓流の撮り方と動き方のコツが知りたいんだ。
奥入瀬渓流が、カメラマンに人気がある本当の理由
十和田湖に端を発する奥入瀬川は、すぐ横を「瀑布街道」と呼ばれる国道102号が走り、川と道路の標高差がほとんどないのが特徴だ。
それゆえ、勾配のきつい山道をまったく歩くことなく、川岸に辿り着ける。
初夏には瑞々しい涼感を放つ新緑が萌え、晩秋には赤黄に染まる紅葉樹を縫うように流れる手付かずの渓流。
そういう渓流は日本各地に幾つもあるのだが、すぐ近くに車道と遊歩道が整備され、同時に点在する幾つもの滝が見られるロケーションというのを、筆者は未だ奥入瀬以外には知らない。
重い機材を担いで歩く人間にとって、それは実にありがたい神の恵みなのである。
奥入瀬渓流の概要と要所
いわゆる奥入瀬渓流とは、十和田湖の子ノ口から焼山までの約14キロにわたるゾーンを指している。
新緑はゴールデンウィークを過ぎた5月下旬から6月、紅葉は10月上旬に色づき始め、10月中旬~下旬頃に見頃を迎える。
奥入瀬渓流のスマートな歩き方
奥入瀬渓流にはロングとショートのハイキングコースが設定されている。
●焼山~子ノ口 14キロ(徒歩約4時間、自転車1時間30分~2時間)
●石ヶ戸~子ノ口 8.9km(徒歩約2時間40分)
もちろんシーズンオフの平日の空いている時間帯なら、クルマで撮影スポットを辿っていける。
だがお盆休みや紅葉シーズンは、日中にクルマで奥入瀬渓流の見どころを回るのは不可能に近い。
そこでさきほどのハイキングコースを歩くわけだが、「焼山から石ヶ戸(いしけど)」までの区間には、これといった撮影ポイントはない。
加えて、冒頭の写真のようなスローシャッターを狙うには、「三脚」が必需品になるため、実際に歩くのは「石ヶ戸から子ノ口(ねのくち)」がお勧めだ。
【重要】撮影は「石ヶ戸」からスタートする
奥入瀬渓流は十和田湖から流れ出ている。
そのため普通は「子ノ口」から歩くほうが、「下り道」になるためラクができる。
だが撮影が目的なら、川や滝が流れてくるのが見える「上り道」の方が、ユニークでダイナミックなアングルを見つけやすい。
おまけに歩き終えたら、「子ノ口」からはバスで「石ヶ戸」まで戻ることができるので、徒歩で往復する必要もない。
この作戦の場合、クルマは「石ヶ戸」の無料駐車スペースに停めるのがベストだが、ハイシーズンは早朝から満車になる。
トイレがあるので車中泊は可能だが、傾斜のひどい場所もあるので、無理だと思えば焼山の「奥入瀬渓流館」に泊まって、朝早くに移動するといい。
またもし「石ヶ戸」の無料駐車スペースが満車なら、そのまま「瀑布街道」を走り切り、「子ノ口」の無料駐車場にクルマを入れて、コースを反対から步こう。
ちなみに、こちらもトイレがあるので車中泊は可能だ。
奥入瀬渓流のお勧めフォトスポット
紅葉のベストフォトスポットは、三乱(さみだれ)の流れ
奥入瀬のハイキングコースの中で、もっとも広葉樹が目立つ「三乱の流れ」が筆者のイチオシだ。
「石ヶ戸」から少し焼山方面に下ったところにあり、「石ヶ戸」の無料駐車場からは歩いて10分ほど。
なかなか逆方向には歩きにくいため、穴場的な場所になっているようだ。
阿修羅(あしゅら)の流れ
一般的には、この「阿修羅の流れ」が奥入瀬のベストフォトスポットと云われている。
川を覆い隠すように木が生い茂っているため、日差しが届かずシャッタースピードが落ちて、川をシルクのように潰しやすい。
ただ「阿修羅の流れ」の付近には、赤く色づく紅葉は少ない。またいつでも人が多く、なかなかいい場所に立てないかもしれない。
雲井の滝
20メートルの断崖を、三段に屈折して流れ落ちる水しぶきが、湧き立つ雲に見えることから、そう名付けられたという「雲井の滝」。
「滝」「紅葉」「目碑」が三者三様に撮れるアングルを探した。
いっぽうこちらはグリーンシーズンの「雲井の滝」。シャッタースピードを上げて、飛沫のシズル感が伝わるようアップで切り取る。
人が加われば、また違うストーリーが見えてくるから面白い。
銚子大滝
奥入瀬渓流の本流にある最大の滝で、高さ7メートル、幅は20メートル。十和田湖への魚の遡上を妨げる「魚止の滝」とも呼ばれている。
写真の左下に人が見えるが、この滝は河原からより、流れ落ちる川が見える滝道の途中から撮るほうが美しい。