この記事は、車中泊関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、原稿作成のためのメモ代わりに書き残してきた「忘備録」を、後日リライトしたものです。
奥飛騨温泉郷から、乗鞍高原経由で白川郷へ
前日は岐阜県の平湯温泉から、国道で白川郷・五箇山・砺波を経由して、宇奈月の道の駅まで足を伸ばして車中泊した。
到着したのは既に7時をまわろうかという時刻で、普通は「よほど」のことでもない限り、この時間まで走ることはない。今回はその「よほど」を狙っての行動だ。
狙うは黒部峡谷を走るトロッコ列車の一番乗り。
台風19号が接近しているとはいえ、ツアーは関係なくやってくる。秋の連休ともなれば、黒部峡谷鉄道の9時~12時台の列車はほとんど予約で満席、つまりフリーで乗車できるのは早朝もしくは午後2時以降になる。
筆者は過去に2度、終点の欅平(けやきたいら)まで取材をしており、そのあたりの事情に精通していたが、それは筆者だけではなかったようだ。
写真は、宇奈月駅で始発の改札を待つ個人旅行者たち。
一級品の観光地で、連休時に人と同じ行動をしているようでは話にならないことを、今はこんなに多くの人が心得ている時代なのだ。
ただ今回の目的地は終点の「欅平」ではない。
トロッコ列車の始発駅がある「宇奈月」は富山県最大の温泉地だが、お湯は黒部川の遥か上流に湧く黒薙温泉から引かれている。
筆者が目指しているのは、黒部川河畔にあるその黒薙温泉の大露天風呂と、さらにトロッコ列車で奥に進んだ鐘釣の岩風呂の2つだ。
筆者が思う宇奈月温泉の真骨頂は、駅前の温泉街よりもこちらにある。
これがその黒薙温泉の大露天風呂。もちろん混浴だ(笑)。
それにしても開放感は図抜けていた。この景色を独り占めするには、始発に乗るだけではダメ。
そのために車中泊は不可欠だが、それに念入りな下調べと緻密な計算が上乗せされ、さらに幸運が伴って、初めてそれは実現する。
いっぽうこちらは、鐘釣駅から20分ほど歩いた黒部川の河原に湧く「おゆ場」。スコップを借りて自分で掘ることができるワイルド感抜群の鐘釣温泉は、もちろん無料で混浴。
北海道以外にも、まだこういう場所が残されているのは嬉しい限りだ。
そして唯一脱衣場があるのがこの岩風呂。透明感あふれる温泉には43度と書かれた札がかかっていたが、入ると不思議に熱さは感じない。
温泉の鮮度が伝わる素晴らしい野湯だった。