この記事は、車中泊関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、現地取材を元に「車中泊ならではの旅」という観点から作成しています。
※ただし取材から時間が経過し、当時と状況が異なる場合がありますことをご容赦ください。

信州を車中泊で旅する大人のための「ユニークガイド」
信州車中泊コースガイド Web-Version【目次】








プロローグ
長期の休みが取得しづらい現役世代にとって、北海道は別天地。
やがて訪れる定年後の楽しみのために置いてある「憧れの大地」だと思う。
それに比べると、関東・東海そして近畿からでもアクセスしやすい信州は、遥かに身近な「リゾート」だ。
現代では「リゾート」といえば「行楽地」を意味するわけだが、本来の「リゾート」は「何度も通う場所」のこと。
つまり、信州には「何度も通いたくなる理由」がある。
そして、それを突き詰めて執筆したのが、2015年7月に発売された「信州車中泊コースガイド」だ。
筆者は既に「車中泊コースガイド」だけでも10冊以上手掛けてきたが、その中で「自分史上一番の出来」と思っている会心作である。
そこで、そのコンテンツをネット上で蘇らせることにした。
特に昨今のブームで、車中泊に目覚めた現役世代の読者には、このコーナーで信州に「何度も通いたくなる理由」を見つけて、自身の車中泊にもクルマ旅にも、「大人らしい磨き」をかけていただきたいと願う。
いい旅をすれば、その旅先に愛着と感謝の気持ちが湧いてくる。そしてそれに勝る、マナー向上のモチベーションはない。
信州の概要
現在の長野県には、他にも「信州」「信濃」と3つの呼び方が混在しており、とりわけ宣伝がらみでよく使われるのが「信州」だ。
「信州」というのは、かつての令制国の「信濃国」のこと。
「信濃国」の「国」は、上州や甲州などに使われている「州」と同じ意味を持つ言葉で、信濃の「信」と「州」を合わせて、いつしか「信州」と呼ばれるようになったという。
その「信州」の範囲は、現在の長野県の県域とほぼ一致する。
つまりどっちで読んでも意図は通じるわけだが、「信州」は長野県民の多くが今でも慣習的によく使用するのと、「信州そば」「信州味噌」など、グルメの世界でもブランドイメージが高い。
加えて「さわやか信州」のように、その耳触りの良さから、観光業界も好んで使っているのだろう。
信州のエリア区分
これは後述する「エリア別・信州車中泊コースガイド」でも使用している区分だが、面積もさることながら、文化や風習のローカル色が強い信州は、上のマップに記された「北信」「東信」「中信」「南信」の4つのエリアに分けて見ていくほうが面白い。
なお、その詳細については長くなるので、後ほど詳しく説明する。
憧れの信州 4つの魅力
エリアガイドに進む前に、「信州」全体に共通する魅力というか、既に浸透しているイメージの話をダイジェストでプレゼンしておきたい。
前述した、信州に「何度も通いたくなる理由」は、たぶんここに起因してくる。
山に惚れる
人が山と接する方法は「十人十色」。
北アルプスで遭難事故が後を絶たないにもかかわらず、麓の上高地には登山経験はもちろん、服装や装備、あるいは季節等による入場制限は一切ない。
ゆえに訪れる人は思い思いの方法で山と接し、山を愛せる。放任主義にも思えるが、それが本当の自由だ。
車中泊のクルマ旅を愛好する人間にとって、この環境が気に入らないはずはない。また山で学んだことは、旅においても活かされる。
大切なのは「自分の旅のスタイル及び体力や年齢とのマッチング」だ。
そのためには「信州の山では何が楽しめるのか」を知ることから始めよう。
ベストスポットは「上高地」
槍ヶ岳に端を発する梓川の上流域に広がる細長い平坦地で、中部山岳国立公園に属し、国の特別名勝・特別天然記念物にも指定されている。
通年マイカー規制が導入されているが、バスやタクシーの便が良く、信州を代表するネイチャーフィールドとして、年間約150万人もの観光客が訪れる。


温泉に惚れる
安くて質の良い温泉といえば、東北あるいは九州を推す人は多いが、信州と答える人は意外に少ない。
こうしてお猿のカップルまでが、気持ちよさそうに浸かるというのに!(笑)。
インパクトの強い「山」と「蕎麦」の影に隠れているが、実は長野県は北海道に次ぐ日本で2番目に温泉地の多い都道府県で、裏返せばそれだけ秘湯・名湯の数も多いということになる。
関東・東海・近畿地方からのアクセスを考えても、そんな信州の温泉めぐりを楽しまない手はないと思う。
ベストスポットは「湯田中渋温泉郷」
湯田中渋温泉郷のはずれにある、地獄谷野猿公苑のニホンザルがLIFE誌の表紙を飾った話は有名だ。
以降、ここの野猿たちは「スノーモンキー」と名付けられ、見学に訪れる外国人は珍しくなくなった。
だが、日本人を含む観光客は野猿公苑にだけ足を運び、本家本元の後楽館にある「お猿の湯」に立ち寄ることはほとんどない。
「野生猿との混浴」という、ありそうでなさそうな湯浴みこそが、秘湯・地獄谷温泉の妙味だというのに…


歴史に惚れる
信州の歴史を語るうえで欠かせないのは、やはり武田信晴(信玄)だろう。
2007年に放送された大河ドラマ「風林火山」を筆頭に、戦国時代の話になれば、「レギュラー」として必ず登場する(笑)。
「甲斐の虎」と諸国から恐れられた信晴は、現在の山梨県甲府に本拠地を置いていたが、京へのルートと海を求めて、信濃侵攻を繰り返した。
信濃土着の豪族だった真田氏は、その晴信の有能な家臣で、武田家滅亡後の信濃を面白くする「立役者」となる。
ベストスポットは「松代」
甲斐の武田軍と越後の上杉軍が、信濃の覇権をかけて5度にわたる合戦を繰り返した川中島の周辺は、古くから交通の要衝にあたる地で、そこに目をつけた信玄は、松代に城を築かせ支配を強めた。
武田氏が滅び江戸時代になると、松代に上田から真田氏が移封されて松代藩が誕生する。幕末に維新の志士達に多大な影響を与えた佐久間象山は、その松代藩が生んだ奇才だ。


蕎麦に惚れる
信州で「そばの美味い店」を人に尋ねるのは野暮な話だ。
信州そばには様々なカテゴリーが確立されており、各々に美味い店が存在する。つまり最初にそのカテゴリーを知ることが肝要だ。
とはいえ、旅では地域を無視できない。
そこで「ご当地そば」という観点から、代表的な信州のそばをピックアップした。店はそのカテゴリーの有名店を掲載している。
ベストスポットは「高遠」
一般的な「そばつゆ」の違いは、醤油・砂糖・日本酒などで作る「かえし」と、昆布やカツオなどから取る「だし」の違いで生まれるが、信州には焼味噌をつゆに混ぜる独特の食べ方がある。
焼き味噌を好みの量だけつゆに溶かし、辛みの強い大根とネギを一緒に食べる「高遠そば」は、桜で有名な伊那の高遠に伝わる郷土料理だ。

