【2022年10月】
車中泊旅行歴25年のクルマ旅専門家がまとめた、高倉健の遺作となった車中泊のロードムービー「あなたへ」の、主なロケ地の紹介です。
このコーナーには、車中泊関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、原稿作成のためのメモ代わりに書き残してきた「忘備録」と、旅でのエピソードを綴ったエッセイを収録しています。
映画「あなたへ」は、旅と放浪の違いを紐解く、クルマ旅映画の秀作
映画「あなたへ」の主なロケ地
プロローグ
2012年9月1日…
今日は午後から、健さん主演のクルマ旅の映画・「あなたへ」を観に行ってきた。上映の15分前にマイカルに着いたのだが、劇場はほぼ満席…
「毎月1日は映画が1000円の日」ということなど、全く頭になかったので、滑り込みセーフとなった。
映画はストーリー、映像共に満足できるものだった。
比べるものではないかもしれないが、同じ車中泊シーンが登場する作品としては、昨年上映された「星守る犬」よりは、その世界を知らない人にもずっと好印象を与えたに違いない。
健さんは御年80歳過ぎとはとても思えない演技で、若き日の「幸せの黄色いハンカチ」を彷彿させてくれた。
それにしても、余貴美子はこういった作品によく出演している(笑)。
しかし、これがまた「ハマリ役」という感じで、どの映画でもいい味を出しているように思えるのだ。龍馬伝の大浦慶役も、筆者にはとても好評だった。
監督:降旗康男 脚本:青島 武
キャスト 高倉健/田中裕子/佐藤浩市/余貴美子/綾瀬はるか/三浦貴大/大滝秀治/長塚京三/原田美枝子/浅野忠信/ビートたけし
ここで、この映画で強く印象に残った一節を紹介したい。
旅と放浪の違いは、
目的があるかどうか…
そしてもうひとつ、
帰るところがあるかどうか…
同じ俳人でも、松尾芭蕉は旅、種田山頭火は放浪であった。
筆者は旅人であって、さすらい人じゃないのだが、本当の放浪なんて「やりたくてもそう簡単にはできない」んじゃないかな。
日本にはそういう文化が息づいていないため、すぐに「人迷惑」なことにぶつかる。道の駅の長期滞在なんて、まさにその典型例だろう(笑)。
さて。ここからは「あなたへ」の主なロケ地を紹介しよう。
この映画は、富山県から長崎県に向かう約1200キロのロードムービーで、富山県射水市・氷見市、岐阜県高山市、大阪府大阪市、兵庫県朝来市、山口県下関市、福岡県北九州市、長崎県平戸市にてロケが行なわれている。
掲載している写真は、この記事を書くためにわざわざ撮ったものではなく、偶然持ち合わせていたものばかりだが、これから旅をするなら「健さんの冥福を祈りながら、映画の足跡を辿って見るのも悪くないな」と思い、編集してみた。
それに考えてみれば、これは壮大な「車中泊コースガイド」のひとつと云える。
氷見・雨晴海岸 富山県
倉島(高倉健)が、妻(田中裕子)と浜辺で寄り添いながら歩いた思い出の地。
富山湾を挟んで海の向こうに立山連峰が見える、富山県屈指のフォトスポットとして知られている。
高山・ドライブステーション板倉 岐阜県
ここは東海北陸自動車道で奥飛騨温泉郷や上高地にアクセスするようになって以来、何度も利用してきたところだ。
「あなたへ」では、ここで高倉健とビートたけしが初めて出会う。
映画には登場しないが、「板蔵ラーメン」はボリューム感があって、筆者の中ではけっこう好きな部類に入る。
しかし… まさか店の前で天然水が汲めるとは、映画を見るまで知らなかった。
ただしこの店は、今はもう存在していない。
難波・道頓堀 大阪
京都では、いかめし販売の田宮(草彅剛)、南原(佐藤浩市)と出会うシーン、そして大阪では彼らのクルマの修理に加えて、実演販売用のいかめし作りを手伝うシーンなどが登場する。
竹田城跡 兵庫県
ここは、雲海がみられる近畿屈指の撮影スポットとしてお馴染みだ。
竹田城跡では、田中裕子が演じる妻・洋子が、歌をやめることを告白をするシーンが撮影された。
車が対抗できない細い道から撮影機材をあげるために、スタッフ総勢150人余りを要する大ロケだったというが、今はもうマイカーでは行くことができなくなっている。
火の山公園 山口県
立っているのは、下関から関門海峡を見下ろす「火の山公園」の展望台。
下関ではここだけでなく、関門海峡が間近に迫る唐戸市場横の姉妹都市広場でも、ロケが行われている。
また関門海峡を渡った九州の門司市でも、区役所と門司港レトロ地区で撮影が行なわれた。
平戸(薄香) 長崎県
この漁村の沖に、妻・洋子は散骨され、映画はフィナーレを迎えるのだが、薄香にはきちんとロケ地が残されていた。
「北の国から」ほどではないが、はるばる本州からやってくる旅人をがっかりさせるものでなく、むしろそれは手作り感が端々に見えるアットホームなやり方に思えた。
当時、薄香の宣伝に一役買っていたのが、当時の区長の久保田さんだ。
筆者が何もいわないのに、どんどんロケ地をガイドしてくれ、健さんのコーヒーや大滝秀治さんの昼食へのこだわりなど、他ではちょっと聞けないエピソードまで聞かせてくれた。
映画会社と自治体の間には様々な調整が必要なようだが、「映画やドラマのロケ地」が、人を呼べる質の高い観光要素であることに疑いはない。
制作費を考えれば、それを「作品収入」だけで償却するのは愚の骨頂…
世の中には、ロケ地になりたい地方自治体は山ほどある。問題はそれをどうビジネスモデルにしていくかだろう。
確かに手っ取り早いのは、旅行会社と宿泊施設が連携する団体ツアーだと思う。段取りを旅行会社がつけてくれるうえに、行政サイドも結果を数字で表わしやすい利点がある。
しかしツアーは、一定数の客が集まり続けないと維持できない。
だが現代は「一発屋」ではなく、SDGsで使われているサステナビリティ(sustainability)、つまり「持続可能」な方法に世間の目線が変わりつつある。
となるとターゲットは個人旅行者で、さらに車中泊旅行者をターゲットにするなら、とりあえずトイレに近い駐車場だけ用意してやればいい。
もしキャンプサイトが用意できれば、バイクも自転車もバックパッカーだってやってくる。
彼らは日帰り温泉に入って、食事もすれば、ガソリンまで入れる。つまり使ったお金がダイレクトに地元に落ちる、ベストな経済対策まで実現する。
自治体にすれば「カモネギ」とはこのこと。筆者には丁重に扱わないほうが、どうかしているとしか思えない(大笑)。