「クルマ旅専門家」・稲垣朝則が、10年以上かけてめぐってきた全国の温泉地を、「車中泊旅行者の目線」から再評価。車中泊事情や温泉情緒、さらに観光・グルメにいたる「各温泉地の魅力」を、主観を交えてご紹介します。
「一浴玉の肌」は、帰るのを忘れてしまう心地良さ。
上高地を訪ねたことがある人は、「沢渡温泉」を長野県の「さわんどおんせん」と読んでしまうかもしれないが、群馬県の「沢渡温泉」は「さわたりおんせん」と発音する。
そして群馬県の「沢渡温泉」は「草津温泉の仕上げ湯」として知られている。
本題に入る前に、それにまつわる沢渡温泉の逸話をひとつ紹介しよう。草津温泉を有名にしたのは源頼朝と云われているが、草津に近いだけあって、ここには「源頼朝伝説の続き」がある。
狩りの途中で偶然見つけた草津温泉に浸かり、その強酸性のお湯で肌を痛めた源頼朝だったが、そのあと沢渡の湯に浸かると、肌荒れがすっかり治まってしまった。以降、沢渡温泉は「草津の治し湯」として、広くその名を知られることになったという。
いかにも「ちゃっかりした話」だけに、逸話が作られたのは江戸時代だと思うが、その真意は別として、約800年前から湯治場として栄え、pH値8.3の弱アルカリ性「カルシウム・ナトリウム-硫酸塩・塩化物温泉」のお湯を持つ佐渡温泉は、歴史的かつ科学的根拠からみても「草津の治し湯」と呼ぶに値する。
「一浴玉の肌」とキャッチフレーズも、あながち大げさではないだろう。
さて、ここからが本題。
「まるほん旅館」はそんな沢渡温泉の共同浴場の隣にある、昔ながらの温泉宿で、玄関には「日本秘湯を守る会」の見慣れた提灯がぶら下がっている。
ここの名物は、総檜張りの床と青いタイルを敷き詰めた見目潤しい混浴大浴場。温泉マニアからは、お湯の質とともに「名湯」の呼び名が高い。
一時は後継者難で廃業を考えたというが、ここに惚れ込んだ群馬銀行の若手行員が会社を辞め、養子縁組をして後を引き継ぎ、今日に至っているという。
ただし大浴場の脱衣所は男女兼用、そのうえ入湯時のバスタオル巻も禁止。宿泊すると、19時30分~21時および朝の6時~7時が女性専用時間になる。
女性が日帰りでこの快感を味わうのは、さすがに難しいかもしれない。
泉質 :カルシウム・ナトリウム・硫酸塩・塩化物泉
お湯:源泉かけ流し
お風呂:内湯女1混浴1貸切1、露天風呂貸切1
休憩スペース :なし
飲食施設:なし
駐車場 :あり(約15台・無料)
シャンプー・石鹸等:あり(無料)
ドライヤー:あり(無料)
〒377-0541群馬県吾妻郡中之条町沢渡温泉
☎0279-66-2011
ちなみに最寄りの車中泊スポットは、晩釣せせらぎ公園無料駐車場になる。
その柔らかいお湯と絶妙の湯加減を通じて、「草津温泉の仕上げ湯」には「カラダ」だけでなく、「気持ちのリフレッシュも完了」という意味が込められていることを教えられた気がした。