この記事は、車中泊関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、現地取材を元に「車中泊旅行における宿泊場所としての好適性」という観点から作成しています。
※ただし取材から時間が経過し、当時と状況が異なる場合がありますことをご容赦ください。
天狗山第一駐車場はついに車中泊禁止に。2022年6月時点のベスト車中泊スポットは「湯畑観光駐車場」
草津温泉の車中泊事情【目次】
草津温泉における車中泊事情の変遷
車中泊が「ブーム」と呼ばれた2010年頃の草津温泉は、世の中のトレンドと反比例するかのように、行くたびに車中泊環境が悪化していく、痛々しい温泉地だった。
少し前までは「大滝乃湯」の駐車場で、堂々とキャンピングカーが寝泊まりしていたにもかかわらず(笑)、車中泊旅行者の増加とともに、道の駅は第一・第二駐車場以外を夜間閉鎖にし、トイレが場内にあった天狗山第4駐車場も、夕方には入口にロープが張られるなど、マナーの良し悪しに関係なく、車中泊の旅人は一律に居心地の悪い思いをさせられてきた。
しかしそれから10年近い歳月が流れ、逆風はようやくおさまった。
車中泊客の受け入れ体制が拡充した草津温泉
実は車中泊客の締め出しを行った同時期に、草津温泉の年間客数は下降線を辿り始めていた。
その理由をいつまでも「バブルの崩壊」にしていられるほど旅館経営は甘くなく、草津温泉は2013年から「温泉街の再開発」という勝負に打って出る。
「御座之湯」の再構築、「熱の湯」のリニューアル、「観光駐車場」の移転など、湯畑周辺の再開発は功を奏し、最初の3ヶ年計画は目標を達成した。
その後も「西の河原露天風呂」のリニューアルなどの再開発が続いたが、とりわけ車中泊旅行者にとって大きかったのは、「天狗山第一駐車場」内に新しくトイレが設置されたことだろう。
収容台数300台を誇る「天狗山第一駐車場」は、以前から無料開放されていたが、トイレが遠く、それが車中泊旅行者が道の駅に集中するひとつの要因となっていた。
しかし真新しい水洗トイレが敷地の中に作られたことで一極化が緩和され、結果として車中泊環境が大きく改善されることにつながった。
また同時に湯畑観光駐車場に「車中泊料金」を設定し、公式に2階で車中泊ができる体制を整えている。
このことは、これまでどこか後ろ髪を引かれながら「道の駅 草津運動茶公園」や「天狗山第一駐車場」で車中泊をしていた、草津温泉ファンのまっとうな車中泊旅行者を大いに喜ばせたに違いない。
さらに草津温泉から8キロほど離れた「道の駅六合」の駐車場の一画には、2017年に電源を完備したRVパークがオープンする。
草津温泉周辺はオートキャンプ場の空白地帯だけに、いい目の付けどころだと筆者は感じた。
このように逆風から順風に転じた草津温泉の車中泊事情だったが、コロナ禍で再び風向きが変わる。
天狗山第一駐車場の「車中泊禁止」がもたらす懸念
2020年の8月に訪ねてみると、「天狗山第一駐車場」には「夜間閉鎖」の旨が書かれた看板が立てられていた。
そこで観光協会に確かめたところ、今回の措置は「新型コロナウイルス対策」の一環との返答が返ってきた。
どうやら夜間閉鎖の理由は、利用客のマナーの悪さではなかったようだ。
しかしコロナ禍が一段落した2022年6月に再訪すると、思いもよらぬ看板を目の当たりにする。
これではっきりしたのは、観光協会の回答は「方便」であったということ。
つまりコロナ禍を隠れ蓑にして、またしても善悪の見境なく、すべての車中泊客の締め出しに乗り出したのだ。
確かに、堪忍袋の緒が切れるほど常識を逸脱した客もいたのだろう。
「天狗山第一駐車場」は公共施設ではないのだから、「車中泊禁止」は「いたしかたのない話」であることは理解できる。
だが、この「道の駅草津運動茶屋公園」に掲げられた条項に違反していた利用客は、全体の何%だったのか?
そしてルールを守り続けてきた善良な車中泊の旅人に対しては、どう釈明するのか?
さらに問題は、このおかげで「道の駅 草津運動茶屋公園」であぶれた人たちが、その夜の行き場を失うことにある。
あぶれた人たちは、こうして駐車区画外で車中泊をしようとするし、そこが埋まれば、路上や私有地にかかわらず、とにかく駐められるところを探してまわるはずだ。
その顛末が事故やトラブルに繋がる可能性は、「ない」よりは「ある」に近いと筆者は思う。
もちろん、それが良いか悪いかは明白で、「駐められないなら他に行くべき」であることは当人たちだって分かっている。
それを案じて、筆者は代替えの車中泊スポットを紹介しているわけだが、残念ながらそういう情報に気がつかない旅人は少なくない。
特にネット検索に疎い60代後半から上の世代ほど、それは顕著といえるだろう。またそういう世代ほど草津温泉に行きたがる(笑)。
ゆえに次はその経験を糧に、道の駅の満車を回避すべく、早々と駐車場の確保に走る旅人が増えるわけだ。
それが一般の利用客の入場を妨げ、しいてはマスコミから迷惑行為と叩かれる。
実によくできた「悪循環のシステム」ではないか(笑)。
この話は草津温泉のみならず、人気の観光地では既に起きている事象だと思うが、草津温泉のように救済策があるにもかかわらず、事故やトラブルの原因になると予測されることに踏み切るのは、さすがに無責任と云わざるをえない。
ましてお祭りのような一時的なものではなく、草津温泉では週末や連休のたびに慢性的に起こりうる話だ。
経済が「需要」と「供給」のバランスで成り立っている以上、「供給不足」の解消優先がビジネス社会では鉄則だろう。
草津温泉ではこの手順が逆であるため、車中泊の旅人は困惑している。
新たな車中泊スポットがたとえ有料でも、内容が値段に見合うものであれば、いずれは受け入れられる日が来る。
どうせなら入口にゲートを付けて有料化し、西の河原露天風呂の利用者には、駐車場の割引券を配るほうがいい。
今や町のスーパー銭湯でも、それが普通になりつつある。
たとえ初期投資がかかるとしても、そうすれば西の河原露天風呂利用者・草津温泉サイド・車中泊の旅人に、三者三様のWinがもたらされる。
草津温泉の予算からすれば、微々たるものなのでは…