「クルマ旅専門家」・稲垣朝則が、10年以上かけてめぐってきた全国の温泉地を、「車中泊旅行者の目線」から再評価。車中泊事情や温泉情緒、さらに観光・グルメにいたる「各温泉地の魅力」を、主観を交えてご紹介します。
訪ねる前に知っておきたい、草津温泉の「本当の魅力」。
筆者の歴訪記録
※記録が残る2008年以降の取材日と訪問回数をご紹介。
2009.07.26
2010.07.17
2012.08.16
2012.11.12
2013.04.26
2013.11.21
2015.04.29
2018.10.26
2020.08.11
2022.06.26
プロローグ
草津温泉には、「泉質以上のクオリティー」がある
湯量・泉質・歴史・サービス、そして何より湯畑を中心にレトロ感を醸し出している温泉街の雰囲気…
いずれを見ても、草津が日本一と自負するだけの温泉地であることが伺える。
「草津よいとこ、一度はおいで」とは、よくぞ云ったものだ(笑)。
ただ、ツアーに参加したり旅館に泊まれば、草津温泉の見どころ・楽しみ方を添乗員や女将がレクチャーしてくれるが、車中泊の旅人はそれを自ら調べなけば、同じようには遊べない。
車中泊の旅が「自由奔放」であることは確かだが、現地で得られる満足感は、出発前の「下調べ」に要した時間と比例する。
しかも車中泊で行く草津温泉の旅には、公共交通機関を利用する個人旅行とは違う、クルマ旅特有の情報が不可欠だ。
これは筆者が執筆と撮影を任され、2014年5月に株式会社地球丸から発売された「温泉車中泊コースガイド」の草津温泉の紙面で、2017年3月にも改訂版が出ている。
また2020年4月に発売された「全国車中泊コースガイド・春夏版」でも、紙面を割いて草津温泉を大きく取り上げた。
その一番の理由は、草津温泉に「泉質以上のクオリティー」があるからに他ならないが、そのクオリティーを車中泊旅行者目線から掘り下げたことで独自性が付加され、オンリーワンの車中泊旅行ガイドとして多くの旅人からの評価を頂いた。
しかしインターネット全盛の現代において、紙媒体で情報を更新していくのは困難を極めるだけでなく、鮮度に重きを置いた競争力に著しく劣るのは否めない。
とはいえ、ネットに泣きどころがないわけではなく、そこを突けばまだまだ雑誌には存在価値があり、生き残ることは可能だ。
ゆえに筆者は「二刀流」を続けている。
幸いなことに…
筆者の手元には2009年から足掛け14年、通算すると10回に及ぶ草津温泉への車中泊旅で得た、実体験に基づくリアルな情報が残されており、中にはマスコミには出せない「裏ワザ」と呼べるネタもある(笑)。
例えば、「道の駅 草津運動茶屋公園」で2013年7月18日の午前4時30分に撮影しているこの写真は、今はもう誰にも撮ることができない貴重なものだ。
というのは、この駐車スペースが今は夕方17時~午前8時30分まで「夜間閉鎖」になっているからだが、筆者の「道の駅 草津運動茶屋公園」の記事には、そうなった経緯も記されている。
車中泊を始めたばかりの若者にすれば、そんなことはどうでもいいかもしれないが、草津温泉における車中泊事情の変遷を知れば、「現地でどのように行動すれば嫌われないのか」が見えてくる。
言い換えれば、それが「郷に入れば郷に従う」ということだ。
「自由奔放」と「自分勝手」は似て非なるもので、「自由」には「責任」が必ずリンクしている。
そして過去にその「責任」を果たさなかった人々のツケが、若者たちの今後に暗い影を落としている。
これは「自然破壊」に共通する「車中泊環境破壊」のナニモノでもない。
さて。
ここから先には、「草津温泉の泉質以上のクオリティーとは何ぞや?」ということが書かれているが、予想通り話は長い(笑)。
時間がない人は以下の目次をうまく活用して、必要な情報をスマートにご覧いただければ幸いだ。
なお草津温泉に限らず、観光地というのは日々進化を続けており、設備や環境が変われば、その対応方法が100%逆転することもある。
コロナ禍以前は草津温泉のベスト車中泊スポットに挙げられていた「天狗山第一駐車場(西の河原露天風呂駐車場)」は、その典型的な事例といえるだろう。
草津温泉車中泊旅行ガイド【目次】
現在でも入湯できる「無料共同浴場」は?
草津温泉が車中泊の旅人を魅了している一番の理由は、無料共同浴場の存在だろう。
草津では古くから温泉の効能や源泉の湧出場所に応じて、町内各所に共同浴場が設けられてきた。
その数は18軒にのぼり、今でも多くは町民の手で清掃管理されている。
ただし現在、観光客に開放されているのは「白旗の湯」「千代の湯」「地蔵の湯」の3ヶ所のみ。
その他の共同浴場は、地域住民の生活施設になっているため入湯はできない。
筆者が初めて草津温泉を訪ねた時は、まだすべての浴場が一般開放されていたが、それは「古き良き時代」の話だ。
「白旗の湯」「千代の湯」「地蔵の湯」の筆者オリジナル入湯レポートはこちら。
残った3軒も、目に余る醜態を見せるおとっちゃんたちがいるかぎり、いつ「駄目~!」になるかは分からない。
いい加減、狭い湯船の横でトドになるのはやめていただきたいものだ(笑)。
どこを探しても、それを推奨している温泉の本は見当たらない。
草津温泉の源泉
ここへ来て、草津温泉では「泉質主義」というキャッチフレーズを登用し、そのクオリティーをアピールしている。
基本的に草津温泉のお湯は「強酸性泉」(酸性低張性高温泉)で、そのph値は2.1。1円玉なら1週間、5寸釘でも10日ほどで溶けてなくなってしまうという。
美容的には10分ほどで皮膚表面が滅菌されるため、高いクレンジング効果が得られるそうだが、肌がスベスベしてくるのはその効果なのだろう。
ちなみに草津温泉の主だった源泉は、「湯畑」「白旗」「西の河原」「地蔵」「煮川」「万代鉱(ばんだいこう)」の6つ。
共同温泉はもとより、多くの旅館がこのうちのどれかを引湯している。
もちろん写真のグラフのように、それぞれ微妙に異なる特性があるのは確かだが、その違いにまで話が及ぶと、もう「温泉旅」の範疇を超えて「マニアの領域」になる(笑)。
草津温泉独自の入湯方法 「時間湯」と「合わせ湯」
草津温泉が持つ「泉質以上のクオリティー」の筆頭は、独自に築き上げてきた「温泉文化」を今日に継承していることで、「湯もみ」はその代名詞といえる。
「湯もみ」は、熱い源泉の中に六尺板を入れて混ぜ、入浴できる温度まで冷ます作業だが、湯畑横に建つ「熱の湯」で定期的に行われているため、観光客向けのレトロなアトラクションだと思っている人も多いようだ。
だが本来の「湯もみ」は、草津温泉で幕末から明治にかけて確立された、「時間湯」という伝統的な湯治療法の一部だ。
具体的には、最初に準備運動を兼ねて「湯もみ」を行い、次に手桶で30杯以上の「かけ湯」を頭から浴びる。その後、湯長の号令で一斉に「入湯」し、3分間で一斉にあがる。それを1日に4回繰り返すのが草津流の湯治である。
その「時間湯」は、以前は「地蔵の湯」と「千代の湯」で定期的に行われてきたのだが、2019年8月以降、安全上の問題から一時中止されていた。
ただ2020年4月から一部やり方を変更し、「伝統湯」と名前を改めて再開されている。詳細は以下の草津町役場のページで確認を。
さらに草津温泉には、もうひとつ「合わせ湯」という古来からの入湯法がある。
「合わせ湯」は、高温の源泉に含まれる温泉成分を、体への負担を軽減しつつ吸収していく入湯法で、ぬる湯から入って、少しずつ熱いお湯に体を慣らしていく。
「合わせ湯」の浴場があるのは、有料共同温泉の「大滝乃湯」で、もっとも温度の低い浴槽は38℃〜40℃、いちばん温度の高い浴槽は45℃〜46℃に設定されている。「時間湯」に比べると、気軽に手軽に体験できるのでお勧めだ。
筆者はこれまで日本各地のメジャーな温泉地を数多く旅してきたが、こういう温泉文化がしっかりしたカタチで残されているところは数少ない。
ちょいな三湯めぐり手形
さて。
大滝乃湯の話が出たところで、今度は草津温泉で実施している「温泉手形」の話をしよう。
写真の「ちょいな三湯めぐり手形」は、草津温泉にある3ヶ所の有料共同浴場(大滝乃湯・御座之湯・西の河原露天風呂)で利用できる割引チケットのこと。ただし入湯できるのは、それぞれ1回だけだ。
通常ならこの3湯をめぐると2100円かかるが、この手形は1600円で購入できるので500円安くなる。約25%オフというのはけっこう魅力的な話だと思う。
さすがにワンデイで3湯をめぐるのはきついと思うが、1泊2日の車中泊なら余裕でこなせるしね!
車中泊でのオススメの使い方は、初日に「西の河原露天風呂」と「御座之湯」か「大滝乃湯」を抱き合わせること。
「西の河原露天風呂」は開放感に満ち溢れているものの、洗い場がない。
ゆえにシャワーとアメニティーが揃った「御座之湯」か「大滝乃湯」を最後にするほうがいい。
夫婦なら、仲良く旅を続けて行くための「さり気ない配慮」も必要だ(笑)。
また有効期限がないので、仮に入れなかった温泉施設があっても、次回リピート時にそれを持ち越して使うことができる。
「西の河原露天風呂」「大滝乃湯」「御座之湯」の筆者オリジナル入湯レポート。
湯畑の見どころ
訪れたことがなくても、名前と景観だけは知っている。きっとそんな人も多いであろう草津温泉の湯畑は、日本の温泉のイメージ・シンボルとも呼べる存在だ。
本来の「湯畑」は、源泉を地表や木製の樋に掛け流し、湯の花の採取や湯温を調節するための施設で、効能の高い源泉を薄めずに、入湯可能にするべく考案された、昔ながらの「湯冷まし装置」のこと。
現在は「温泉公園」として整備され地名にもなっているが、囲いの中には毎分約4600リットル(ドラム缶25本分) ものお湯が湧き出す「泉源」がある。
開湯の歴史は不詳のようだが、戦国時代からその存在は広く知られていたようで、江戸時代には天領として幕府の直轄支配を受けている。
将軍御汲み上げの湯
湯畑の中にあるこの木枠は、「将軍御汲み上げの湯」と呼ばれ、「暴れん坊将軍」でお馴染みの八代将軍・徳川吉宗の命により、江戸まで草津温泉のお湯を運ばせていた当時の名残だ。
ここからお湯を汲みあげて樽詰めにし、江戸まで担いで運んだというから驚く。
江戸に着く頃には、どのくらい温度が下がっていたんだろうかね~。
草津に歩みし百人
草津温泉の湯畑の特筆すべき点は、それが観光客にも見られるようになっていることにある。
石柵には「草津に歩みし百人」の名前が刻まれているが、そのラインナップは「日本武尊(やまとたけるのみこと)」のような神様から、「源頼朝」などの武将、さらには詩人・俳人・作家と多岐に及んでおり、そのセレクションがまたマニアックでおもしろい。
ちなみに一番左端の「蓮如(れんにょ)上人」は、浄土真宗・中興の祖と呼ばれるいっぽうで、現在の大阪城にあった石山本願寺を盾に、織田信長に徹底抗戦したことでも知られている。
大河ドラマ「麒麟がくる」に登場していたので、記憶に新しい人もあるだろう。
ちなみに開放感に満ちた現在の湯畑は、芸術家の岡本太郎氏の発案から誕生した。
湯滝
最後に、冷まされたお湯が流れ落ちる湯畑の人気撮影スポット「湯滝」をご紹介。
近くには2001年に環境省が認定した「香り風景100選」の石碑が立つ。
「香り風景100選」には、草津温泉の他に「ふらののラベンダー」や「厳島神社潮のかおり」などもある。
なお湯畑の脇には足湯があるが、若者と外国人で混み合っていることが多い。
そもそも無料で全身どっぷり浸かれる本物の温泉がすぐそこにあるので、車中泊の旅人にすれば、足湯はさほど魅力のあるものでもないだろう(笑)。
あえて草津温泉で足湯に浸かるなら、この西の河原公園にある足湯が、もっとも開放的で草津らしいように思えた。
温泉街の見どころと食べどころ
手っ取り早く草津温泉を楽しみたいなら、湯畑周辺をウロウロするだけで事足りる。
ツアーのように夕方草津温泉に到着し、翌朝にはもう次の目的地に向けて出発するような旅行者にとって、「湯畑」界隈は風情を味わい、お土産を買うのに打って付けの場所だろう。
だが筆者が知る限り、草津温泉ほど活気があって、バラエティーに富んだ店が軒先を並べる温泉街はない。
ゆえに「そぞろ歩き」はお勧めだ。
時には、こんな「掘り出し物」に出くわすことも。
キャンピングカーなら、味噌さえあれば「きのこ汁」くらいは簡単にできる。
迷惑なくらい、朝から温泉まんじゅうの試食を迫る店。ちなみに草津温泉で人気の饅頭屋はここじゃない(笑)。
もちろん通りには食事処や居酒屋が何軒もあり、「るるぶ」に出ている店や「食べログ」で高い評価を得ている店には、御託に漏れず人が並んでいる(笑)。
なお草津温泉街は主要な筋から少し離れると、路地はクネクネしていて坂や階段が多くなる。そのため店のないところを歩くのは、あまり勧めない。
草津温泉の駐車場&車中泊事情
まず草津温泉における車中泊事情の歴史は、以下の記事にまとめてある。
そして紆余曲折の結果、現在の草津温泉で車中泊と温泉街のそぞろ歩きが両立できるのは、「湯畑観光駐車場」ということに落ち着いた。
冒頭で書いたように「天狗山第一駐車場(西の河原公園駐車場)」での車中泊は、既に禁止になっている。
また「道の駅 草津運動茶屋公園」は、駐車場の約半分近いスペースが「夜間閉鎖」となるため、実質的には50台弱しか車中泊はできない。
なお「道の駅 草津運動茶屋公園」で運良く車中泊ができた人にお勧めの、湯畑界隈にあるコインパーキングがこちら。
いずれにしても…
今の草津温泉では、お金で心身の安全を確保することを勧めしたい(笑)。
PS
GWや夏休みは、少し離れた車中泊スポットから日帰りで草津温泉に出かける作戦のほうがいいと思う。
ということで最後の最後に、その際の「前泊」「後泊」に使える2つの場所を書き加えておこう。