「クルマ旅専門家」・稲垣朝則が、10年以上かけてめぐってきた全国の温泉地を、「車中泊旅行者の目線」から再評価。車中泊事情や温泉情緒、さらに観光・グルメにいたる「各温泉地の魅力」を、主観を交えてご紹介します。

大丸旅館は、ラムネ温泉館の経営母体
大丸(だいまる)旅館の創業は大正6年(1917年)。長湯温泉がまだ湯之原(ゆのはら)温泉と呼ばれていた時代に遡る。
まもなく100年周年を迎える歴史の中で、この宿には与謝野鉄幹・晶子、大仏次郎、徳富蘇峰、高田力蔵、立松和平等々、実に多くの文化人や著名人が逗留してきた。
筆者はほとんど、このような格式高い旅館の湯殿に入ることはないのだが(笑)、九州だけは例外だ。
本州の有名な温泉地なら、まず1000円は下らないであろう外来利用料金が、想像の半値くらいで収まる。事実、この大丸旅館も500円だった。
さて、写真は大丸温泉が誇る名湯「テイの湯」。
実は昭和30年代後半の長湯温泉は、乱掘により自噴できない泉源が増加し、大丸旅館の源泉も枯渇状態に陥っていたそうだ。
そんなある日、三代目女将のテイは、夢枕に現れた白髪の老人から、「隣の茶畑に素晴らしい高熱泉が湧出する」というお告げを受ける。話を聞いた息子の作平が掘削を行ったところ、長湯温泉としては最も浅い90メートルとういう深さで、50度の高熱泉源を掘り当てることに成功したという。
逸話にしては、まだ少し熟成期間が足りないような気もするが(笑)、いずれにしてもこうして温泉宿が続けられているのは、そのお告げと話を信じた行動力によるものなのだろう。
これぞ、源泉かけ流し。
2006年に長湯温泉は九州の各温泉地に先立ち、「源泉かけ流し宣言」を行っている。もともと温泉というのは、鮮度が落ちれば効能も下がり、どのみちその価値を失ってしまう運命にある。
長湯温泉に湧き出す質の高い炭酸泉は、特にそれが顕著であろうことは、素人の筆者にも容易に想像がつく話だ。
ただ日本には同じように一度枯渇の危機に陥った経験から、源泉を共同管理し、循環濾過に切り替えて活路を見出した、下呂や城崎のような温泉地もある。
「テイの湯」から惜しげもなく、川に返されていくお湯をみると、それがいかに贅沢なことであるか、そして「枯れれば全てが終わる」道を選んだ、長湯温泉なりの覚悟が伝わってくる。
新聞広告や旅番組で頻繁に見聞きする「源泉かけ流し」だが、温泉地に行けばそんな軽い言葉ではないことがよくわかる。
根底には「一期一会」に通じる精神が宿っているのだ。
休憩用にと案内していただいた部屋。玄関のロビーで待ち慣れた我々には、驚きの瞬間だった(笑)。
〒878-0402 大分県竹田市直入町長湯7992−1
電話:0974-75-2002
●入浴料:500円
●営業時間:11時30分~17時
●休業日: 不定休 ※満室等による休業あり
●泉質:マグネシウム・ナトリウム・カルシウム‐炭酸水素塩泉
長湯温泉 車中泊旅行ガイド





「アラ還」からの車中泊


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