この記事は、車中泊関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、全国各地からセレクトした「クルマ旅にお勧めしたい100の旅先」の中のひとつです。
※ただし取材から時間が経過し、当時と状況が異なる場合がありますことをご容赦ください。

「氣」が漂う京都の奥座敷
貴船は鴨川の水源にあたり、貴船神社はそれを守る水の神様のお社として、古来より守り続けられてきた。

実際に訪ねてみればわかるが、神社一帯は古木・大木が醸し出すしっとりとした空気に包まれ、スピリチュアルな雰囲気が漂っている。

風情あふれる石段を登り切ると、目の前に2頭の馬の像が飛び込んで来る。
平安時代に記された文献によると、雨乞の社といわれた貴船神社には、歴代天皇により、日照りには黒馬、長雨には白馬又は赤馬を、その都度献げて祈願する習わしがあったという。
しかし祈願が度重なる際には、生き馬に換えて馬形の板に色をつけた「板立馬」を奉納したとされている。
その「板立馬」が今日の絵馬の原形で、古くは和泉式部が復縁を、源義経が源氏再興を、それぞれ神前に絵馬を捧げて祈ったそうだ。
さて。貴船神社は奥宮が元々の鎮座地だったが、度重なる災害を受け、1055年(天喜3年)に現在の場所に移築された。

写真の本殿は平成17年に建て替えられたもの。どおりで真新しい感じがした。

貴船神社のご利益の原点は、水の働きから生まれた信仰にあるようだ。
水は命の源であり、汚いものを洗い流す浄化力にも優れている。清らかな水は、心の中の汚れをも清め、心が洗われると元気が蘇る。
かつて、キフネは「気生根」とも書かれていたという。
「氣の生ずる根源」の前で祈れば運も開かれる… それが心願成就のご利益に通じるということらしい。
本殿から出て貴船川沿いを奥宮に向かって進むと、中宮「結社」が現れる。

ここには「天照大御神」の孫で「天孫降臨」を果たした「ニニギノミコト」にまつわる恋の逸話が残されている。
今から千年もの昔に宮廷の女流歌人・和泉式部が参詣し、名歌「蛍の歌」を捧げて恋を祈り、その願いが叶えられた。以来、貴船神社は「恋の宮」としても知られるようになったという。
関東なら、とっくに「恋人の聖地」になっているに違いない(笑)。

最後は奥宮。本殿から約500メートル、歩いて7.8分ほどの川上に建つ。

奥宮は「古社中の古社」といわれ、伝説では第18代の反正天皇の御代(1600年程前)の創建と伝わるが、正確な創建年代は不詳のまま。
社伝によれば、神武天皇の母にあたる玉依姫(たまよりひめ)が黄船に乗って淀川、賀茂川(鴨川)、貴船川を遡り、このあたりに船を留め、そこに社殿を建てたのが始まりだという。
境内には玉依姫が乗ってきた黄船を、人目につかないように小石を積んで囲んだものと伝わる「船形石」があり、今でも海に出る時は、この小石を携帯すれば航海のお守りになるといわれている。
最後に、貴船神社にある珍しい2つのご神木を紹介しよう。

相生の大杉
結社と奥宮の間にあり、同じ根から生えた2本の杉の大木がぴったりと寄り添うように天に向かって伸びている。樹齢は1000年ともいわれ、その姿を仲睦まじい老夫婦の姿になぞらえ、相生(相老)の杉と呼ぶようになった。

連理の杉
奥宮の神門をくぐったすぐ左山手の末社・日吉社の横に、杉と楓が合体した珍しい大木がある。連理とは、別々の根から生えた2本の木の枝がくっついてどちらがどの枝かよく分からなくなることを意味し、夫婦、男女の仲が親密なことに例えられる。
日本各地には様々な由緒を持つ神宮・神社があるが、貴船神社の由緒はそれなりに理屈が通っているのが面白い。ただ世界遺産にならないところを見ると、神々神社とはどうかが違うのだろう。
それはさておき…

叡山電車の貴船口駅から徒歩でおよそ30分を要するが、それでも京都の寺社仏閣の中でお勧めできるスポットのひとつだと筆者は思う。
貴船神社
京都府京都市左京区鞍馬貴船町
☎075-741-2016























