【2022年11月更新】
車中泊旅行歴25年のクルマ旅専門家がまとめた、「武雄温泉」の魅力と車中泊事情に関する記述です。
「クルマ旅専門家」・稲垣朝則が、10年以上かけてめぐってきた全国の温泉地を、「車中泊旅行者の目線」から再評価。車中泊事情や温泉情緒、さらに観光・グルメにいたる「各温泉地の魅力」を、主観を交えてご紹介します。
車中泊の旅では、武雄温泉は嬉野温泉の「奥座敷」と捉えるほうが分かりやすい。
「武雄温泉」の筆者の歴訪記録
※記録が残る2008年以降の取材日と訪問回数をご紹介。
2014.01.15
2018.01.01
2021.12.28
※「武雄温泉」での現地調査は2021年12月が最終で、この記事は友人知人から得た情報及び、ネット上で確認できた情報を加筆し、2022年11月に更新しています。
武雄温泉【目次】
武雄温泉のロケーション
武雄温泉については、まず車中泊の旅行者が事前に知っておくべき話が2つある。
ひとつは一般的に云う「武雄温泉」とは、単独の温泉館だということ。
誤解のないよう付け加えておくが、武雄温泉に旅館街がないわけではない。
ただ、歴史あるその温泉館の知名度が圧倒的に高いがために、世間のイメージはそうなっている。
対比すると分かりやすいのが、お隣の「嬉野温泉」だろう。
「嬉野温泉」は単独の温泉館ではなく、共同浴場と温泉旅館が一体となって広がる温泉街、すなわち温泉地として一般的に認知されている。
日本の温泉という言葉の意味は広いので、最初にこういうことを調べておかないと、現地で戸惑うハメになる。
もうひとつは、武雄温泉は嬉野温泉から約14キロしか離れておらず、クルマがあればで20分ほどで行けるということ。
しかも両温泉ともに、お湯は弱アルカリ性の「美肌の湯」。成分はまったく同じではないにしろ、体感で明らかに違うと感じるほどのものでもない。
それなら、行かなくてもいいのでは?
そう思う人があるかもしれないが、武雄温泉には嬉野温泉では見ることのできない国指定の重要文化財があり、それは見ておいて損はないと思う。
電車で移動するのは億劫だが、クルマなら20分なんてすぐそこだ(笑)。
よってそれらを総合すると、武雄温泉は嬉野温泉の「奥座敷」と表現するほうがしっくりくる。
武雄温泉の歴史と概要
近くにあるのだから当たり前だが、武雄温泉の歴史は嬉野温泉のそれとほとんど変わらない。
多少は違うものの、嬉野温泉の名前の由来にかかわる神功皇后の逸話もあれば、「肥前風土記」に登場するのも同じだ。
さらに歴史上の著名人が入湯したという話も共通するが、武雄温泉には朝鮮出兵の際に名護屋城に集められた多数の兵が訪れ、無骨な彼らに温泉好きの豊臣秀吉が示した、「入浴心得」と呼ばれる朱印状が残されているなど、ちょっと微笑ましいような話もある。
呼子にあった名護屋城は、後の「関が原の戦い」の火種になったとも云える、なかなかに面白いところなので、詳細記事をリンクしておこう。
武雄温泉と呼子はクルマで1時間ほどなので、ぜひ両方訪ねてみて頂きたい。
もっとも…
それより興味深いのは、最近になって判明した近代のミステリーめいた話のほうだ。
武雄温泉には、竜宮城をイメージさせる鮮やかな朱色の「武雄温泉楼門」と、かつて大衆浴場として使われていた「武雄温泉新館」の2つの国指定重要文化財がある。
両者は唐津出身の辰野金吾博士の設計により、1915年(大正4年)に建てられたものだが、辰野博士といえば東京駅や日本銀行本店などを手がけた、日本の近代建築のパイオニアだ。
当時の「武雄温泉にシンボルを作りたい」という地元の思いは強く、それを託された辰野博士の設計図は、3つの楼門とサウナ式の蒸し風呂やビリヤード場、さらには陶磁器博物館まで記された、壮大なものだったという。
もしその通りに実現していたら、「千と千尋の神隠し」に登場する湯屋も、違った建物になっていたかもしれない(笑)。
さすがに設計図通りにコトは運ばなかったが、かわりに辰野博士は楼門にイカしたメッセージを仕込んでいた。
そのメッセージがこれ。
2012年(平成24年)、辰野博士が設計した東京駅が創建当時の姿に復元された。
その際に、丸の内駅舎の八角形ドームの天井も復元されたのだが、そこに描かれていたのは十二支のうちの8つで、残りの4つはどこにあるのか話題になった。
さまざまな憶測が飛び交う中、翌年にそれが「武雄温泉楼門」にあることが判明。東西南北を意味する卯・酉・午・子が、楼門2階の四隅の天井板に彫られていた。
「武雄温泉楼門」と東京駅の建設は同時期で、東京駅が1年早い1914年(大正3年)に開業している。
辰野博士は、偶然重なった近代建築と伝統建築の設計に、「両方共存するのが近代日本の歩むべき道」という想いを込めていたのだろうか…
今となってはその真意を知る術はないが、現代人がこのミステリアスなメッセージを、好き勝手にイメージを膨らませて観る姿を、時代を先取りする辰野博士は予測し、夢見ていたのかもしれない。
この写真は、「武雄温泉楼門」の謎が解けてしばらくした頃、たまたま東京駅に行く機会を得て撮影してきた。
その時には何でもなかったことが、こうして日を置いて意味のある出来事に変わる。
年季を積み重ねてきた今は、それも日本を広く旅することで得られる喜びのひとつだと強く思う。
ただ、現在は「武雄温泉楼門」の日常的な公開はされていないとのこと。
興味を覚えた人は、事前に公開の有無はもちろん、受付時間や見学料金などを電話で確認してから出かけよう。
武雄温泉(株)☎0954-23-2001
さてこちらは、もうひとつの国指定重要文化財となった「武雄温泉新館」。
2003年(平成15年)に復元工事が完成し、大正初期に建てられた当時の華麗な姿が蘇った。
中では当時の大衆浴場の様子や、幻の浴室といわれる大正天皇のために造られた浴室などが見学できる。
入場料:無料
開館時間:10時~18時・毎週火曜定休
武雄温泉の日帰り温泉
武雄温泉には3つの共同浴場と、2つの貸切風呂棟がある。
楼門をくぐって最初にあるのが1876年(明治9年)に建築された「元湯」で、現在使用されている温泉施設の建物としては、日本最古のものとされる。
浴槽は「あつ湯」と「ぬる湯」に分かれており、カラン(蛇口)やシャワーはない。
大人450円
6時30分~24時
「宝来湯」には湯船が室内にひとつしかないが、シャワーを完備しており、雰囲気は銭湯に近い。
大人450円
6時30分~21時30分
「鷲の湯」は旅館「楼門亭」の浴場を兼ねているため、通常の内湯の他に露天風呂とサウナがあり、「元湯」と「宝来湯」よりもゴージャスだ。
大人680円
6時30分~24時
武雄温泉の中で筆者がお勧めするのは、鍋島氏専用の浴場として使われていたという貸切風呂で、中には「殿様湯」と「家老湯」がある。
「殿様湯」は江戸時代中期に、領主・武雄鍋島氏の専用風呂として造られた総大理石の見事な浴室で、「江戸参府紀行」にはシーボルトが入浴した様子が紹介されている。
そのうえ、ご覧のような立派な控室付き。
これぞまさしく殿様気分だった(笑)。
1時間3800円(土日祝) ※平日割引料金3300円
10時~23時 ※予約不可
ボディーソープ、リンスインシャンプーあり
ちなみにこちらが「家老湯」。空いていたので見学だけしてきたが、「殿様湯」とは料金以上の格差を感じた。
1時間:3000円(土日祝) ※平日割引料金:2,500円
10時~23時 ※予約不可
ボディーソープ、リンスインシャンプーあり
さらに武雄温泉には、新館の隣に「柄崎亭」という棟があり、そこでは「天平の湯」「桜華(はな)の湯」「芭蕉の湯」の3つの個性が違う貸切露天風呂が楽しめる。
各1室1時間: 3400円(土日祝) ※平日割引料金:3000円
ボディーソープ、リンスインシャンプーあり
繰り返しになるが、武雄温泉は単独の温泉館で、ひとつの敷地の中にこれらが全て収まっている。
それだけでも、ちょっと他には例を見ない施設だろう。
武雄温泉のグルメスポット
せっかく武雄温泉まで来たのだから、何かひとつ美味しいものでも…
実にベタだが、プロも同じで、やっぱりそういう時はスマホをアテにする(笑)。
その結果、武雄温泉から6キロほど離れた、北方にある「井手ちゃんぽん」という店を選ぶことにした。
観光地における筆者の店選びの決め手は、駅や有名なスポットからの距離だ。
大半の観光客は足がないので、徒歩圏内の有名店は混雑しやすい。逆にクルマがないと行きにくい店は、地元の人から高い評価を受けている場合が多い。
必ずしもそうとは限らないが、中高年は若者ほど「食い意地」が張ってはいないため、大評判で長蛇の列より、味も混み具合も「そこそこ」がいい(笑)。
暖簾をくぐって「よし!」。
予想通り、店内はサラリーマンと普段着のお客で賑わっていた。
さて。
「井手ちゃんぽん」の看板メニューは、その名の通り「ちゃんぽん」だ。
「井手」は大阪からこの地に疎開し、店を開くことになった創業者の名字から来ているが、1949年(昭和24年)の創業当時は「千十里食堂」という店名だったらしい。
だが長崎で覚えてきた本物を手本に、練り物と野菜大盛りのアレンジを加えた「ちゃんぽん」が、北方の炭鉱夫の間で評判となり、いつしか「井手ちゃんぽん」呼ばれるようになったことから、2代目の時に店名をそれに合わせたという逸話が、ホームページに書かれている。
料理人にとっては、光栄なことだと思う。
本場の長崎でも、「ちゃんぽん」を編み出した「四海樓」でさえ、「四海樓ちゃんぽん」とは呼ばれていないのだから。
せっかくなので、筆者は大好きなキクラゲが載せられた「特製ちゃんぽん」を注文。
こっちのほうが絵面もいいしね(笑)。
味のほうは練り物が効いて、スープにいいダシが出ている。魚介類のダシとは一味違い、どことなく大阪風みたいにも思えた。
ちなみに現在は、これに生卵がプラスされて980円になっているようだ。
井手ちゃんぽん本店
11時~ 21時(LO:20時30分)
第1・3・5 火曜日は15時閉店
水曜定休
武雄温泉の車中泊事情&車中泊スポット
武雄温泉の車中泊スポットとして筆頭に挙げられるのは、約7キロ離れたところにある「道の駅 山内」だ。「生活応援スマイル」というスーパーと隣接しており、利便性に優れている。
ここで車中泊をするなら、先に陶磁器の町・有田を観光し、朝から武雄温泉に向かい、午後から嬉野温泉に入ると動きに無駄がない。
他では、くるま旅パークに登録している「大正浪漫の宿 京都屋」でも車中泊を受け付けている。
なお、武雄温泉の無料駐車場には2時間までの時間制限があり、とても車中泊ができる雰囲気ではないだろう。