達人が存在するのは、「車中泊」ではなくオートキャンプやクルマ旅の世界
北海道でロケをした筆者たちのクルマ旅の様子が、昨日(2014年8月1日)の読売テレビ「かんさい情報ネットten!」で放映された。
企画は「特集・車中泊にリゾート気分!お手軽に進化!最新アウトドア事情」というもので、他には伊勢志摩のオートキャンプ場にあるゴージャスなコテージと、滋賀県でのキャニオニングが組み込まれた構成である。
そもそも車中泊というのは多面性を持つ宿泊手段で、2.3分の枠内で到底説明できるものではない。
それもあって、今回はテレビ局側の意向に合わすかたちで、淡々と「モデル業」をこなしてきた。ゆえに放映された内容については特に不満はないのだが…
番組で流れた「車中泊の達人」という紹介が気になった。
何度も書いている通り、車中泊は「クルマ旅の宿泊手段のひとつ」で、「クルマの中で寝るだけの行為」にすぎない。
ゆえに本来は難しいことは何ひとつなく、ましてやフル装備されたキャンピングカーを使えば、買った翌日から誰もが「車中泊の達人」になれる(笑)。
マスコミは車中泊の達人に、「クルマの中で快適に眠るためのテクニック」のようなものを期待しているかもしれないが、車検がきちんと通る方法でのノウハウは既に確立されており、10年以上も前から多くのホームページや雑誌で紹介されている。
おまけに近年では、ホンダからほとんど段差なくフルフラット化できる車種が続々と市場投入されており、その達人技の必要性もずいぶん薄れてきた。
そうなると、いまさらそれを「テクニック」と呼ぶこと自体がおこがましく、還暦を過ぎた筆者には、もうバカバカしくてできない(笑)。
つまり、そんな薄っぺらい世界に「達人」が存在するわけはなく、無理に仕立てあげようとするから、話がおかしくなる。
もし筆者が「達人」であるとしたら…
それは「オートキャンプ」と「クルマ旅」においてでだろう。
車中泊はそれに付随するひとつの要素にすぎない。
環境や状況に応じて最適といえる食事や滞在方法を選択し、かつ快適さを引き出すことは容易じゃない。
まして、数多あるキャンピングギアを知ったうえで、そこそこ使いこなせるようになるには、かなりの投資と時間が必要だ。
筆者は既に20年以上そのことに人生を費やしてきた。経験値を高めるには、キャンプ用品メーカーに勤めるか、そうする以外に方法がないからだ。
例えば、テントやシェルターを張る場所を見れば、その人のキャンプ経験値が分かる。達人レベルにある人は、晴れていても水が流れこむような「低地」は選ばない。
旅も同じだ。
「るるぶ」や「まっぷる」に出ている観光地には行きたくもないと嘯いてみたところで、いざ人前に立てば、その発言に深みがないことはすぐに分かる。
近頃は「でたとこ勝負」みたいな旅番組をよく見かけるが、旅には「お金」がかかるわけで、庶民の場合はそれが経費ではなく身銭だ。
バブルの頃なら話はわかるが、筆者を含めて将来の不安に苛まれるシルバー層や子育て世代に、そんなことをするために貴重な遊びの軍資金を使う、気持ちの余裕があるとは思えない。
過去に旅行誌が、手を変え、品を変えて紹介し続けてきた場所には、それなりの魅力と理由がある。
ゆえに流行っているのは、旅を「ネタ」にしたバラエティー番組であって、王道の旅番組とはまったくの別物だと筆者は思っている。
だが、かく云う筆者も「独自性」が大事であることに異論はない。
とはいえ、それがどれだけ素晴らしいのか、あるいは面白いのかを測る「ものさし」が自分の中になければ、それを人に伝えることは難しい。
しかもその「ものさし」は、一度や二度日本を駆け足で周ったくらいで身につくものではないだろう。
精度の高い「ものさし」もない状態で語る「独自性」に、どれだけの信ぴょう性があるというのか…
アフィリエイト目的のブロガーやYoutuberの中には、「車中泊」のごとき小さなマーケットなら、コンテンツの希薄さをSEOでカバーできると勘違いしている人もいるようだが、それは読者を冒涜する行為にほかならない。
最後に、もうひとつ。
「感性」も達人には不可欠だ。
誰もが見慣れた景色でさえ、感性次第でストーリー性のある違う景色に仕立てられる。
写真は今や富良野の代名詞となったファーム富田だが、その最高に美しい景観を見るにはどうすればいいのか…
そういうことを考える人間が、やがては達人の領域に到達する。
加えて、そのファーム富田を「どう紹介するか」… 実はそこに、その人の旅の経験値が反映される。