オートパッカーの原点は、上高地トレッキング

ネイチャーフィールド
正真正銘のプロ」がお届けする車中泊旅行ガイド
この記事は、車中泊関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、現地取材を元に「車中泊ならではの旅」という観点から作成しています。
※ただし取材から時間が経過し、当時と状況が異なる場合がありますことをご容赦ください。
クルマ旅専門家・稲垣朝則の主な著書
車中泊の第一人者と呼ばれる稲垣朝則が、これまで執筆してきた書籍・雑誌と出演したTV番組等の紹介です。

初めて上高地を訪ねたのは、今から約20年前。1997年の夏休みだった。

空前のオートキャンプ・ブームが頂点を迎えようとしていたこの年、我家は大激戦の予約を制し、人気の奥飛騨温泉郷オートキャンプ場に出かけた。

今では笑い話になってしまうが、当時は人気の高い高規格オートキャンプ場の予約を取るには、会社を休んでやらなければ無理! とまで云われた時代である。

この頃の筆者はオートキャンプを始めてちょうど3年、云ってみれば中級レベルの人だった。
今振り返れば、キャンプに出かけても、焚き火以外にアウトドアらしいことは何もできず、次々と道具を買い揃え、マニュアルブック通りにモダンなキャンピングサイトを演出することが、何よりも楽しく感じられた時期だった。

また各地の人気オートキャンプ場を泊まり歩くことが、キャンプをする主たる「目的」だったのかもしれない。

もっとも… その経験がなければ、この世界を生業にしている現在の自分はいないわけで、それはけして無駄ではなかったと確信している。

ゆえに筆者は、昨今ブームと化している若者達のキャンピングスタイルに対して、否定どころか親近感を抱いている。

むしろそれくらいキャンプにのめり込める人間の方が、より早く本質に気づき、次のステップに足を踏み出すことができると思う。

上高地に来て何もしないというのは、実は何もできないということではないのだろうか…

さて。初めて降り立った上高地には、美しき梓川と圧倒的な存在感を放つ穂高連峰、そして大きなリュックを背中に背負って行き交うアルピニストと、黒塗りの一眼レフを首からぶら下げたフォトグラファー達の姿があった。

河童橋を過ぎて小梨平に入ると、そこはもう明らかに別世界… とにかく見るもの全てが新鮮に思え、強く心を揺さぶられたことを鮮明に覚えている。

その想いは、当時の日記にこう記されていた。
上高地を自分の旅先リストに書き加えても、空しさに苛まれるだけだ。 登山・写真・スケッチ、あるいは研究…  プロ・アマを問わず、 ここは何らかの明確な目的を持って訪ねてこそ、意味のある場所に違いない…

さらに運命的だったのが、ビジターセンターが主宰している無料のネイチャーツアーへの参加だった。

まだ何も知らない段階で、専門家から上高地の生き物や自然に関する丁寧なレクチャーを受けたことがきっかけで、わずか1時間ほどのうちに、上高地は筆者にとって「景色の美しい場所」から、「自然とアウトドアを学習するためのエリア」に変わっていった。

20年間の軌跡

初めての訪問からおよそ20年。

その間に筆者は10回以上この地を訪ねているが、その中の主だった軌跡を取り上げてみた。

2000年・ゴールデンウィーク

初めて車中泊で沢渡に泊まり、小梨平のコテージで一泊して徳沢まで足を伸ばした。300ミリのレンズで野鳥を一心不乱に追いかけた。

2003年・5月下旬

家内とともに小梨平にテントを張り、ニリンソウが咲き乱れる上高地を散策する。まだ若かったので、スノーピークの重いテントを担いで行けた(笑)。

2003年・10月

新穂高ロープウェイで西穂山荘に上がり、高台から上高地を撮影。「独標」を目指して歩いたが、途中であえなくギブアップ… まさに「荷が重すぎた」。

2007年・夏

息子とともに小梨平にテントを張り、そこから涸沢を往復。所要時間は13時間… 今思えば、その距離を知らなかったからこそできたと思う(笑)。

2007年・秋

友人夫婦とともに徳沢にテントを張り、念願だった涸沢の紅葉を撮影。さすがにこの頃には、多少は知恵もついてきた。

2008年・ゴールデンウィーク

それまでの経験を、車中泊専門誌「カーネル」創刊号の巻頭特集(カラー16ページ)にまとめて寄稿。それが評価され「車中泊で旅する」の連載が始まる。

2009年・秋

友人夫婦とともに徳沢にベーステントを張って、念願の槍ヶ岳にアタックする。槍ヶ岳山荘に泊まって登頂を果たす。

2009年・2月

家内と沢渡のペンションに泊まり、スノーシューで釜トンネルから河童橋まで厳冬期の上高地を散策した。

2011年・2月

スノーシューを入手し、友人夫婦とともに今度は車中泊で釜トンネルから河童橋までスノートレッキングを敢行。大雪と厳冬の車中泊は、スノートレッキング以上に過酷だった。

2013年・9月

「信州車中泊コースガイド」の編纂で、夏の上高地を再訪した。やはり上高地は夏がラクでいい!

2016年・2月

カーネルの取材で3度目のスノートレッキング。たぶん、冬の上高地はこれで見納めになると思う。3度で十分満足した(笑)。

2018年・4月

乗鞍~奥飛騨温泉郷取材の合間を縫って、開山祭に沸く上高地を半日ウォーキング。見たかったコマドリをついに激写。

冒頭で記した通り、上高地との出会いは筆者のキャンピングスタイルの変遷と深く連動しており、それがオートパッカーの原点であるいっても過言ではない。

もし、ここでの経験がなければ、北海道を含めた後のアウトドアライフを、これほど充実して過ごすことはできなかっただろう。

最後に。

「緑のニリンソウ」は、1万本に1輪咲くかどうかの珍種とされ、幸運を呼ぶと云われているが、確かにそれは本当かもしれない(笑)。

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