この記事は、車中泊関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、現地取材を元に「車中泊ならではの旅」という観点から作成しています。
※ただし取材から時間が経過し、当時と状況が異なる場合がありますことをご容赦ください。

河童橋で一度、自然探勝路を「切り分ける」。
このマップでは分かりづらいが、一般的な上高地のハイキングルートは、①大正池~河童橋間(約4キロ・所要時間2時間程度)と、②河童橋~明神池往復(約3キロ・所要時間2時間程度)の2つに分かれる。
終日上高地に滞在するなら、午前と午後に分けて①+②を歩くことは可能だが、以下の理由から筆者はそれを勧めない。
1.午後3時から5時台の上高地バスターミナルは激混みする。
2.①と②は見頃の季節が違う。
ゆえに、上高地をスマートにハイキングするなら、無理をせず河童橋で一度コースを切り分けるほうがいい。
上高地ハイキングガイド【目次】
ハイキングコース概要 ①大正池~河童橋
バス(タクシー)を大正池で途中下車して、そこから河童橋までの自然探勝路を歩く。
1-1.最大の見どころは大正池
大正時代の焼岳の噴火により、梓川が堰き止められてできたのが「大正池」。高台から見下ろすと、その地形がよくわかる。
この写真は奥飛騨温泉郷にある新穂高ロープウェイで、西穂高に通じる登山道まであがり、その途中から撮影したのだが、ドローンを飛ばせば、大正池の岸からいとも簡単に撮れると思う。
ただ今となっては、もはや不可能。
結局、筆者と同じ苦労をしなければ見られない(笑)。
この正面に見えている山が活火山の焼岳。
手前の立ち枯れはよくガイドブックにも紹介されているので、ご存知の人も多いと思うが、筆者が「最大の見どころ」と云う理由は別にある。
それは秋によく見られる「朝靄」だ。この幻想的な光景を見るためには、午前7時には池の畔に三脚を構える必要がある。
我慢して「時」を待てば、こういう不思議な光景にも出会える。
1-2.河童橋までのコースガイド

出典:上高地旅行情報・観光ガイド
ここからは大正池でバスを降りた後、河童橋に到着するまでのお勧めルートと、フォトスポットを紹介しよう。
❶は既に上で紹介済みだが、大正池でバスから降りる予定なら、なるだけバスは乗降口の近くに乗るようにしよう。みんなリュックを背負っているため、満員になると降りるだけで一苦労する。
またここにはトイレがあるので、下車したら用を足しておくほうがいい。
次のフォトスポットは、大正池から約20分で到着できる❷の田代池と田代湿原だが、ここが絵になる季節は秋から冬で、夏場はパッとしない(笑)。
とりわけ美しいのは厳冬期。田代池の水は湧き水なので凍らない。
なお筆者は、田代池からまっすぐ林間コースを進むのではなく、少し来た道を戻り、梓川沿いを通る自然探勝路でマップ❸の河畔を目指している。
田代池を通る大半の人は見落としていると思うが、ここは上高地でもっとも梓川が美しく思える一等地だけに、多少大回りしても損はない。
下流側には焼岳もアングルに取り込める。
そのまま飲めそうにも思えるが、まだここでは飲まないほうがいい。
夏もいいが、ベストシーズンは紅葉の時期だ。川の向こうには、目が覚めるくらい鮮やかな光景が広がる。
ここから河童橋までは、途中で穂高橋を渡り、「梓川右岸コース」と呼ばれるバスターミナルの対岸を歩く。
秋は穂高橋からの景観も美しい。
途中には、上高地を世に広めた英国人宣教師ウォルター・ウェストンのレリーフもある。
筆者が「梓川右岸コース」を勧める理由は、もうひとつある。

お腹を満たした後は、お決まりのカットで〆るとしよう(笑)。
ただし、この構図は「河童橋の上」からでは撮れない。
河童橋から少しだけ岳沢湿原方面に進むと、真正面に梓川がおさまってくれる場所が見つかる。
ハイキングコース概要 ②河童橋~明神池往復
終点の上高地バスターミナルで下車し、そこから河童橋と小梨平を抜けて、嘉門次小屋のある明神池までを往復する。
2-1.最大の見どころは嘉門次小屋

2-2.明神池までのコースガイド

出典:上高地旅行情報・観光ガイド
河童橋~明神池の往復は、行きと帰りで違う道を通るほうがおもしろい。
距離は①のコースより多少短いが、食事時間を加味して2時間を想定している。ただし嘉門次小屋の混み次第によって、3時間近くになる日もあるだろう。
お勧めなのは、行きに小梨平を抜けて明神に至る「梓川左岸コース」、帰りに明神池から岳沢湿原の木道を通る「梓川右岸コース」だ。
「梓川右岸コース」にはアップダウンがあり、行きに通ると登りが多い。
朝の「梓川左岸コース」は、小梨平の木漏れ日の道を通る。
森を抜けると、ところどころから梓川の様子も伺える。

明神池の手前に建つ、穂高神社奥宮。
穗髙見命(ほたかのみこと)を祀る穗髙神社は安曇野市内にあり、その奥宮がここ、さらに嶺宮は北アルプスの主峰奥穂高岳の頂上にある。
驚いたことに穗髙見命は海神族の祖神で、その末裔である安曇族は、北九州からやってきて信州の地に根付いたという。
明神池は穂高神社奥宮の境内にあるため、入場には拝観料が必要。
明神池は一の池と二の池に分かれており、二の池は小島が多く、明神岳を背景として日本庭園のような風景が広がる。しかも二の池は梓川に通じているため、水中にはブラウントラウトやイワナが生息している。
筆者が訪ねた日は、ちょうどオシドリ夫婦も遊びに来ていた。
さて。こちらが帰りに通る「梓川左岸コース」の木道。人が多いと立ち止まることもままならず、自由が効かない。
そのため筆者はあまり好きではないが、ちゃんと土産は持って帰る(笑)。モデルはルリビタキの男の子。冬になると里山にも姿を現す小さな青い鳥だ。
最後に結論を。
この写真は「倒木更新」と呼ばれる自然のサイクルを写したものだ。
朽ちた木のうえに発芽した樹木が、その養分をもらいながら育つことで、上高地の森はその姿を今日まで維持してきた。
特に②はネイチャー・マニアックなハイキングルートで、こういうことに興味が持てないと、正直くたびれるだけで面白みに欠ける。
だから最初に云っただろ。
いちばん愚かなのは、上高地に来たら大正池や明神池を歩かないとウソみたいなことを書く、無責任なガイド本やウェブサイトの脅迫的記事に惑わされることだってね。
たとえハイキングレベルでも、記事を本気で書くつもりで、きっちり上高地を見て歩けば、そんな軽々しい話にはならないし、写真も足しげく撮らなければ、それなりの数を揃えることができないことに普通は気がつく。
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