「クルマ旅専門家」・稲垣朝則が、20年以上かけて味わってきた全国のソウルフード&ドリンクを、そのレシピと老舗・行列店を交えてご紹介します。
お勧めする理由は、長崎新地中華街にある蘇州林は、「ちゃんぽんと皿うどん」のどちらにも特徴があって、おいしい店だから。
ちゃんぽんと皿うどんがおいしい店「蘇州林」【目次】
プロローグ
旅人には、「おいしい」以外にも大事なことがある
往々にしてメジャーなソウルフードの紹介は、雑誌でもウェブでもこのような感じで、「選び放題・見放題!」とばかりに、店の掲載数で押してくる。
だが食が細くなった中高年は、旅行中に「ちゃんぽん」や「皿うどん」を食べるのはせいぜい1回。
加えて、紙面で見るほど名店には味に大差がないことも知っている。
すなわちこういう紹介を見ても、ちっとも心はときめかない(笑)。
ご承知の通り、長崎には日本に3つしかない本格的なチャイナタウンがある。
九州在住であれば、見どころ豊かな長崎の町に、何度もリピートすることが可能だろうが、本州から来る旅人が、いったい何度この辺境の地に来れるというのだろう。
それを考えると、長崎新中華街を訪ねてぶらぶら歩き、できうることならそこでおいしい「ちゃんぽん」と「皿うどん」にありつきたい。
一人旅ではさすがに苦しいかもしれないが、一緒に旅ができる夫婦なら、それはいとも簡単な話だ(笑)。
それに見どころの多い長崎の町では、こうして時間を有効に使わないと、見たいところを全部周れなくなる。
もちろん筆者も「ちゃんぽん」といえば、この「四海樓」が元祖であることは知っている。だが「四海樓」は孤立したビルなので、ただ食べに行くだけになる…
それが「蘇州林」をプッシュする筆者の根拠だ。
”長崎中華” ちゃんぽんと皿うどん
ご承知の人も多いと思うが、「ちゃんぽん」と「皿うどん」は、いずれも日本の長崎で生まれた中華料理だ。
「ちゃんぽん」のルーツは、さきほどの中華料理店「四海樓」の創業者が、長崎で暮らす同胞や中国人留学生の貧しい食生活を見かね、安くてボリュームがあるうえに、丼一杯でバランス良く栄養が摂れるようにと考案したオリジナルの料理にある。
いっぽう「皿うどん」はその「ちゃんぽん」の”焼きそばバージョン”として作られたのが始まりとされており、汁がないので平皿に盛って出されたことからその名がついたという。
さらに地元では、いずれにもあえて「長崎」を冠につけているが、それには明確な理由がある。
まず「ちゃんぽん」と「皿うどん」には、小麦粉にかん水ではなく、上海から伝わった唐灰(とうあく)汁を加えた、長崎県だけの特製麺が使われている。
唐灰汁で練った麺は、独特の味わいを持つだけでなく、消化を助け、さらには食欲を増進するうえに、防腐、殺菌の作用まであるというが、唐灰汁は薬品のため、作るには厚生省の許可が必要だ。
また一般的な「皿うどん」は、パリパリに揚げた細麺が使われるが、長崎では太麺とその細麺の2種類がある。
長崎県民は、それに「金蝶ウスターソース」をかけて食べるそうだ。
蘇州林の皿うどん&角煮ちゃんぽん 食レポ
さて。
ひととおり「ちゃんぽん」と「皿うどん」のウンチクを紹介したところで、その基本を押さえた「蘇州林」の2品を紹介しよう。
まずはレギュラーの「ちゃんぽん」に、卓袱料理に使われる豚の角煮をトッピングした「角煮ちゃんぽん」1430円から。
「ちゃんぽん」の食レポには邪道かとも思ったが、長崎市内の「ちゃんぽん」を全部食べられるわけでもないので、「1日限定20食」の売り言葉に釣られて、好物の角煮が乗ったこちらメニューを選択した。
その角煮の柔らかくて旨いこと! 釣られたことに感謝したくなる逸品だった。
ただ角煮があまりにもおいしすぎて、ちゃんぽんの印象は残っていない(笑)。
いっぽう、こちらは長崎屈指の細麺と呼ばれる「皿うどん」1100円。
まず見た目よりサクサクしたその食感に驚かされるが、もっと驚くのは粘度は高めに、量は少なめにしてある餡とのバランスだ。
往々にして、皿うどんは餡を絡めるとすぐしんなりしてしまうものだが、蘇州林の餡は最後までサクサク感が失われないよう工夫されている。
しかも具材は大きめで、ボリューム感もそれなり…
いやいや、いいものを食わせていただきました。神戸でも横浜でも、そして長崎でも、やっぱり中華街の店は期待を裏切らないね!