「クルマ旅専門家」・稲垣朝則が、10年以上かけてめぐってきた全国の温泉地を、「車中泊旅行者の目線」から再評価。車中泊事情や温泉情緒、さらに観光・グルメにいたる「各温泉地の魅力」を、主観を交えてご紹介します。
温泉宿と呼ぶに相応しい、佇まいと応対に大満足!
「乗鞍高原温泉」には温泉街と呼べるような場所はなく、日帰りでこの地を訪れる人の多くは、乗鞍観光センターに近い日帰り温泉施設「湯けむり館」を利用することが多いと思う。
だが、それはちょっと残念な話…
「乗鞍高原温泉」あるいは「のりくら温泉郷」という限りは、その名に相応しい「温泉宿」が存在するはずだ。
そう思って探し当てたのが、この「山水館 信濃」だった。
もっとも、この話には伏線がある。
筆者は車中泊をする前に何度かスキーでこの地を訪ねている。その時には別の古ぼけた民宿「みたけ荘」に泊まったのだが、そこの温泉は実に良かった!そのおかげで、乗鞍のお湯には好印象を抱いていた。
さて。見るからに和風仕立ての「山水館 信濃」は、玄関をくぐると囲炉裏の間が迎えてくれる。
そのうえ、おかみさんの愛想のいい。
たった540円でそこまで丁寧な応対をされると、逆にこちらが恐縮してしまうのだが(笑)、筆者のこれまでの体験では、「老舗」と呼ばれる宿ほど「日帰り客」と「宿泊客」を同等に扱ってくれる。「山水館 信濃」は、出だしからして好感度大だった。
浴場には男女それぞれに、檜の内湯と露天風呂が設けられている。 内湯には、エメラルドグリーンにも見える幻想的な濁り湯の「乗鞍高原温泉」が注がれ、うっすら硫黄臭が漂っている。
ところで。温泉ファンならご存知かもしれないが、この「山水館 信濃」は主成分の異なる「乗鞍高原温泉」と「わさび沢温泉」が同時に楽しめることで有名だ。いや、有名だった…
たしかに初めて訪ねた時は、露天風呂には無色透明で乗鞍高原内の2軒の宿でしか入れないという、希少な「わさび沢温泉」が引かれていた。
しかし2019年の8月に再訪した時は、露天風呂にも内湯と同じ「乗鞍高原温泉」が注がれていた。
不思議に思って確かめてみると、「わさび沢温泉」は供給公社の解散に伴い、2018年でお湯の供給が終了したとの旨が、ホームページに書かれていた。
たしかに残念ではあるが、筆者は「だからといって、ここにはもう行かない」とはならない。
考えてみれば、内湯と外湯が同じお湯の温泉施設のほうが、世の中には圧倒的に多いはずだ。それに何より筆者は、温泉選びの筆頭に「居心地の良さ」を挙げている。
山水館信濃(さんすいかんしなの)
〒390-1513 長野県松本市安曇3925-1
☎0263-93-2301
料金:大人540円
営業:通年/12時~19時30分(閉館20時・ただし、宿泊客のある時のみ。要確認)/不定休