島津斉彬の本気度が伝わる世界遺産、関吉の疎水溝と寺山炭窯跡

鹿児島県の史跡
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この記事は、車中泊関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、現地取材を元に「車中泊旅行における宿泊場所としての好適性」という観点から作成しています。
※ただし取材から時間が経過し、当時と状況が異なる場合がありますことをご容赦ください。
クルマ旅専門家・稲垣朝則の主な著書
車中泊の第一人者と呼ばれる稲垣朝則が、これまで執筆してきた書籍・雑誌と出演したTV番組等の紹介です。
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密かなる「世界遺産」の構成要素

斉彬の時代の薩摩は、海に面した城下を列強の軍艦から守るために、大型のキャノン砲を砲台に並べることが急務であったが、当時の日本には、頑丈で射程距離の長い大型の大砲を作る「すべ」がなかった。

そこでまずは佐賀藩に倣い、上質の鉄を製錬できる「反射炉」の建造にとりかかるのだが、当時は鎖国中で、西洋人に依頼するどころか、建造方法を学ぶことも容易ではなかった。

そのため、やむなくオランダの書物だけを手がかりに、日本人だけで造ることになるのだが、薩摩の場合は、基礎部分に石垣を造る技術、燃焼室などの耐火レンガに薩摩焼の技術を応用するなど、随所に独自の発想が盛り込まれていたようだ。

さて。「反射炉」とは、燃焼室で燃料を燃やして得た熱を炉の中に送り、壁や天井で反射させて炉床に集中させることで、鉄の精錬を行う施設のこと

筆者もアバウトにしか理解できていないのだが、旅人の場合、反射炉についてはこの程度の知識があればコト足りる(笑)。

ちなみにこの写真は、伊豆半島の韮崎に残る、原形をとどめた日本の反射炉の遺構で、同じく世界遺産に登録されている。

仙厳園の反射炉跡にも、江戸時代には炉や煙突があったのだが、それらは薩英戦争後になくなり、現在は基礎部分だけが残っている。

普通、仙厳園に残る「反射炉跡」のガイドはここらで終わる(笑)。

そして旅行者たちは「なんとなく分かったような気分」になって、その場立ち去って行くわけだが、それでは「感激」とか「感動」は得られまい。

本当は、ここで大事なことを補足説明する必要がある。

ひとつはその熱源となる燃料についてだ。完成した反射炉で鉄を溶解させるには、高温を発する持続時間の長い石炭が理想的とされたが、薩摩ではその石炭が採掘できなかった。

次に、鋳造した大砲は、砲身に玉を込める「穴」がなければ使えない。他藩ではその「穴」をあける動力を水車から得ていたが、仙厳園の近くには川がなく、さらに平野であるため「ダム」を作ることもできなかった。

しかし、斉彬公は諦めない。

まず燃料には「木炭」を使用。幸いなことに、薩摩藩内には白炭(しろずみ)と呼ばれる、上質な木炭の元になるシイノキやカシノキがふんだんにあった。

写真はそれを焼いた「寺山炭窯跡」。江戸時代には付近にこのような大型の炭窯が3基あったそうだが、現存しているのはここだけ。なお当時の炭窯には、この上に粘土で作られたドーム状の屋根が載っていた。

マイカーによる寺山炭窯跡へのアクセスは、まず「寺山ふれあい公園」を目指し、その無料駐車場にクルマを停める。この駐車場にはトイレがあるので車中泊も可能だろう。

駐車場から案内看板に沿って遊歩道を進むと、寺山炭窯跡には10分くらいで到着できる。その途中には、征韓論に敗れて帰郷した西郷隆盛が、開墾社をつくって、この一帯およそ39ヘクタールを開墾し、自らも生徒とともに鍬を振るったと伝わる「南洲翁開墾の地の碑」がある。
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いっぽう、こちらは「関吉の疎水溝(せきよしのそすいこう)」の取水口跡。

明らかに人の手で積み上げられたように見える石垣のあたりがそうらしいのが、筆者には正確に特定できなかった。

ただ、当時の土木技術を視察に来ているわけではないので、それもアバウトでかまわない(笑)。

大事なことは、重機もセメントもない時代に、稲荷川の上流に位置する関吉から仙巌園まで、延々と約8キロに及ぶ疎水溝を通し、8メートルしかない高低差を利用して大量の水を安定的に引き込むことに成功したことだ。

さらにそれを集成館の裏山から落として水力に変え、工場内の動力源として使っていたのだから驚きだ。

マイカーで関吉の疎水溝に行く際の目印になるのは、ニッセイギャラリー稲音館(☎099-243-6277)。そこから先は案内板をたよりに進むが、わかりやすく迷うことはなかった。

また「関吉の疎水溝入口バス停」横には、駐車場と簡易トイレが用意されているが、駐車場には10台も入らないので、連休時は手前のニッセイギャラリー稲音館にクルマを停め、そこから歩くほうが無難だろう。

念のため、全体の位置関係がわかるマップを用意しておこう。なお、この3つを廻るなら、3時間は見ておくほうがいいと思う。

最後に。

この、もはや執念とも思えるような工程を経て、薩摩の大砲は日の目を見る。

しかし残念ながら、血と涙の日本最新砲は、既に世界では時代遅れの産物だった。斉彬なき後の薩摩藩士は、生麦事をきっかけに勃発した「薩英戦争」で、それを身を持って知ることになる。

生麦事件とは

この頃のイギリスでは、既に画期的な「アームストロング砲」が開発されており、その最新技術の大砲と世界で最初に対決したのが、なんと薩摩藩であったといわれている。

鹿児島湾に侵入してきたイギリス艦隊に対し、薩摩側は斉彬の時代から整備してきた陸上砲台から迎撃するが、旧式砲の短い射程では太刀打ちできず、藩所有の艦船はもとより、鹿児島城下の10分の1ともいわれる面積が消失するという大打撃を被った。

だがこの戦争を契機に、薩摩藩はイギリスとの協力関係を築き、後の世に大役を果たす若者を留学させることになる。

この、明治維新がいかに大変であったかが偲ばれるエピソードは、まさに150年の節目を迎えた今こそ、振り返るべき話だと思う。

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