「クルマ旅専門家」・稲垣朝則が、20年以上かけて味わってきた全国のソウルフード&ドリンクを、そのレシピと老舗・行列店を交えてご紹介。
自分で作る「道民のご馳走」
よく耳にする「グルメ(gourmet)」の本当の意味をご存知だろうか。
その和訳は食通である。料理の味や料理の知識について詳しいこと。またはそれを詳しく知っている人物を指し、 別称として美食家とも呼ばれる。
だが、巷では「美味しい料理を食べさせてくれる店をたくさん知っている人」をそう呼んでいることが多いように感じる。しかもそうなるには、こうまでして名店の味を食べ重ねなければならない。
はたして北海道まで来て、こんなことに貴重な時間をつぎ込む価値があるのかどうか… ちょっとインスタに写真を載せたいだけなのに…(笑)。
ついでに、もうひとつ確認しよう。
貴方はソウルフードという言葉をご存知だろうか。ソウルフードとは、「その地域で親しまれている郷土料理」という意味を持つ。
写真の鉄砲汁はまさにその典型で、根室特産の「花咲ガニ」の関節を味噌汁に入れるだけのシンプルな料理だが、濃厚なダシが出て実に美味い。
ただし真っ赤な花咲ガニを買ってきたのでは、本来の味は出ない。
鉄砲汁に必要なのは「生のカニ」。赤くなった花咲ガニは浜茹されており、既にその旨味を失っているのだ。
だが、地元根室のスーパー「マルシェ・デ・キッチン」では、夏の漁が始まると鉄砲汁用の「生花咲ガニの切り身」がこんな値段で手に入る。なんて財布に優しいご馳走なんだ!
ここで冒頭のグルメの話に戻ろう。
和訳によると、鉄砲汁の旨い店は知らないが、その素材と作り方を知っている筆者も「食通」のひとりと云えるのでは…(笑)
「味の名店めぐり」は車中泊旅の人気コンテンツで、それ自体が悪いことだとは思わない。中には奥さんの日頃の労に感謝を込めて、旅行中は「上げ膳据え膳」にするという人もいる。
筆者はそれも仕事であるがゆえに、これまでに日本全国の行列店の暖簾をそれなりにくぐってきたが、今はこう思っている。
北海道で美味いのは「料理」というより「素材そのもの」。
つまり北の大地には、多少包丁さばきが拙くても、自前で美味しく食べられるソウルフードがたくさんある。実はそれこそが「家庭料理」の原点なのだ。
冒頭の「親子丼」に乗っているイクラもそのひとつ。新鮮な筋子をばらし、醤油漬けにして持って帰れば、喜ばない人はたぶんいない(笑)。
貴方も北海道で、そういう「グルメ」を目指してみないか。