この記事は、車中泊関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、原稿作成のためのメモ代わりに書き残してきた「忘備録」をリライトしたものです。
「晴耕雨読」なクルマ旅
現在発売中の「カーネル25」の北海道特集で、筆者は「晴耕雨読な旅のススメ」という話を書いているのだが、今年のような天候不順に見舞われると、ますますそういう旅のやり方が必要になってくる。
たとえば曇天や小雨の日は、温泉でゆったり時間を過ごすのが一番いい。
写真は「からまつの湯」。北海道でも人気の高い養老牛温泉にある無料の混浴露天風呂で、すぐ脇を小川が流れ、湯船の真横に源泉が湧く。
旅館でもなかなか味わえない一級品のロケーションがここにはある。ただし水着は禁止。ということで、女性にはハードルが高い温泉といえるだろう。
なお国道から温泉に通じるダートに入る角には、なんの標識も立っていない。
今はナビにも出ておりアクセスに支障はないが、15年前は見つけるのに本当に苦労させられた。
いっぽうこちらは「からまつの湯」から約30キロほど離れた標津にある「川北温泉」。温泉に通じる林道が崩れ、3年間閉鎖をしていたが、つい先月に営業を再開したというので訪ねてきた。
無色透明で無味無臭の「からまつの湯」とは違い、白濁の硫黄泉はヌメリもあって塩辛い。なお、川北温泉には男女別の湯船が用意されているので、女性同伴の旅人にもお勧めだ。
ただ筆者には、なんとなく違和感が残った…。そこでストックしていた2011年の写真と比べて見ることに。
なるほど、違和感の原因は壁だったわけだ。雰囲気は以前の方が良かったかもしれない。
川北温泉の難点は、道中の半端ではない悪路。
20キロ以上で走れば、車内で荷崩れが起きそうなくらいの凸凹に加え、対向できる場所は少なく、木の枝も垂れ下がっている。残念ながら、この温泉はキャブコンは100%行けないといっても過言ではない場所にある。
さて。今度は「晴耕」のお話をしよう。
紋別が先週末に花火大会を迎えたため、喧騒を避けて知床半島に向かうことにした。週末のウトロは運よくかなりの好天で、昼間は暑いくらいの陽気だった。
途中、サロマ湖でホタテを仕入れ、国設知床野営場で先発隊の若者2人組と合流した。彼らとは東京で再開後、着かず離れずの旅をしている。この日筆者が知床に来たのは、彼らから「ヒグマ遭遇」の一報を受けたからだ。
実は1年前のちょうどこの時期も、筆者は彼らと知床にいた。
その時にヒグマの探し方とよく出没する場所をレクチャーしておいたのが、それが功を奏したようで、昨年は会えなかったキムンカムイを奴らは自力で見つけ出すことに成功していた。
翌朝5時過ぎ、いよいよヒグマウォッチングがスタート。
ルシャ湾にいる餌付けしたヒグマを海上からクルーザーで見に行くのとは違い、我々のは行き当たりばったりだが、ヒグマだってバカじゃない。
何度も出没する場所には、ちゃんとそれなりの理由がある。そんなわけで、過去の実績から遭遇確率の高い場所を順番に見て回る。
もっとも… こんなおっとりした鹿がいる近くにヒグマはいない。メスの鹿は群れで行動するが、今は子育ての時期なので、ヒグマが近づけば警戒して姿を現さないという話を筆者は聞いたが、確かにそう思う。
事実、これまで8度遭遇してきたヒグマの近くに鹿の姿はなかった。
カムイワッカ湯の滝に通じるダートの入口。久しぶりにマイカー解禁になった2011年から3年ほどは、この道で面白いくらいヒグマに出会ってきたが、出るたびにフェンスが増え、昨年はもう出てくる気がしなかった。若者たちは昨日ここも調査したが、不発に終わっている。
そこで前日の遭遇場所に移動する。ただ彼らの話では、そのヒグマは知床自然センターのスタッフに見つかり、山に追い返されたらしい。
知床自然センターはヒグマの保護と観光客の安全のために、頻繁にパトロールしては、公道近くに出てくるヒグマを山に追い返している。ということは、もうここに来る可能性は薄そうだ。
そこで、方針を変えて横断道路沿いを峠に向かって進み出した時のことだった。1台の対向車が路側帯に停まり、クルマの中から筆者の前方の森に向けて一眼レフを構えていることに気がついた。
そのため、超徐行にして数メートル進んだところに、やはりいた!
その距離10メートル未満、手前はもうアスファルトの道である。彼女はアリの巣を探すのに夢中のようで、こっちのことなど全く眼中になく、悠々としていた。写真はフロントガラス越しであるため、これが精いっぱい。家内がいれば助手席の窓越しにクリアな画像が撮れただけに残念だった。
このヒグマが「彼女」と分かったのは、それから数分後。森に戻ると、どこからか小グマが現れ、甘えながら遊びだした。
小グマは通常通り2頭いて、大きさからすると生後まだ5.6ヵ月ほどだろう。この子たちはこれから約2年間母熊と暮らし、再来年には巣立っていく。
森が暗く、草木も邪魔をしていたため、親子のシーンがきちんと撮れなかったのは残念だが、家内が来てから再び知床を訪れるつもりなので、次回のラッキーに期待している。ネイチャーフォトは「一期一会」。こういう日もある。
さて筆者は現在、別海町のふれあいキャンプ場で充電中。もちろん充電しているのはクルマのバッテリーで、筆者は今日1日ここで執筆して、明日の朝から飛行機でやってくる家内を迎えに、千歳に向けて移動する。