この記事は車中泊関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、現地取材を元に「車中泊ならではの旅」という観点から作成しています。
※ただし取材から時間が経過し、当時と状況が異なる場合がありますことをご容赦ください。
「増毛町」は、大人がちょっと一息つきたくなる町
増毛町【目次】
増毛町のヒストリー
増毛の町名は、アイヌ語で「かもめの多いところ」という意味の「マシュキニ」又は「マシュケ」が転じたものといわれているが、その背景には鰊(ニシン)の群来(くき)がある。
記録によると、1751年(宝暦元年)に松前の商人・村山伝兵衛(能登国出身)が増毛に出張番屋を設けて以降、和人がこの地に定着した。
それを契機に増毛でニシン漁が本格化し、町は経済発展を遂げるのだが、そこにロシアの船が姿を現すようになる。
そのため幕末には、津軽や秋田の藩士が増毛に派遣され、ロシアに対する北方警衛に当たることとなった。
写真は当時の秋田藩の陣屋跡に建てられた、総合交流促進施設の「元陣屋」。
内は有料の資料館と図書館になっていて、資料館では江戸時代から昭和にかけての増毛の歴史を、DVDと展示資料で知ることができる。
さて。明治時代に入ると、増毛は交通の要衝となり、港湾、鉄道の整備が急ピッチで進められていく。
特にニシン漁の最盛期には、貨物輸送の拠点として賑わい、増毛駅の周辺には今も当時の繁栄ぶりを懐かしく感じさせる建物が、幾つか残されている。
写真は、100年前の姿をそのまま現代に伝えている旧商家丸一本間家。
本間家は「丸一本間」の屋号で、呉服商に始まり、ニシン漁の網元・海運業・酒造業と、時代とともに多岐にわたる事業を展開してきた、増毛の豪商の代表格だ。
さて、サクッと増毛の歴史を紹介したところで、社会科の授業のような話は終了(笑)。ここからが、本当の増毛町の面白いガイドになる。
増毛町を有名にしたのは、映画「駅 STATION」
「駅 STATION」は、増毛町や雄冬岬などを舞台に、1981年に制作された高倉健主演の映画だ。
ストーリーは射撃の五輪選手でもある警察官と、3人の女性の切なく衝撃的な出会いと別れを、3話のオムニバス形式で描いたもので、倉本聰が高倉健のためにオリジナルの脚本を用意している。
スクリーンでは、倍賞千恵子の艶っぽい演技にご注目。
幸せの黄色いハンカチ当時からワンランクアップしたその色気は、世の殿方をすっかり虜にしてしまった。
いかにも倉本聰らしいセレクトと思わせる「雄冬岬」
映画に登場する「雄冬岬」は、北海道三大秘岬(ひこう)のひとつとされていた難所で、この「雄冬トンネル」が開通し、国道231号の全線が通年通行可能になったのは、なんと1992年のこと。
それまでは、冬に海岸沿いを走って札幌方面から増毛に行くことができなかったというから驚きだ。
まさに「麓郷」と共通する、北海道らしい未開の地の姿がそこにある。
筆者が初めて北海道を訪ねた2000年当時、富良野から黒板家のある麓郷の八幡丘に行く道は、まだ走れば埃が舞い上がる急勾配のダートだったことを思い出す。
舞台が麓郷でなければ、おそらく「北の国から」はあれほどのヒット作にはならなかったと思うのだが、増毛でなければ「駅 STATION」も、これほど強く印象には残らなかったかもしれない。
今も残る当時のロケ地「風待食堂」
こちらは映画に登場した増毛駅前にある「風待食堂」で、現在は観光案内所として使われ、当時の写真も飾られている。
映画の中で、倍賞千恵子が働いていた小料理屋のセット。呑みさしの食器があるのは健さんの席だ。
これは2015年にはなかったが、2020年に再訪した時には蘇っていた。
その理由は、以下を読んでいただければ分かる。
増毛駅は、2016年にJR留萌本線の留萌駅から増毛駅の区間が廃線になったため、現在は稼働していないが、写真はその前年の廃線になる前の様子。
やはり赤字路線だけあって、廃れてますなぁ(笑)。
いっぽうこちらは、廃線後の2020年に訪ねた時の駅舎の中。すっかりリノベーションされて、小洒落たカフェになっていた。
もちろん外観は、見た目は変わらないように改修され、駐車場もできている。
廃線後に人気が出て、驚くほどきれいになった例としては、帯広の幸福駅が挙げられるが、増毛駅もやり方次第では「○○の聖地」になり得るかもしれない。
てっとり早いのは「高倉健巡礼・北海道○ヶ所めぐり」の指定スポットかな。
スタンプラリーでもやれば、そこそこ人は集まりそうだ(笑)。
増毛町のお勧め見学スポットは「國稀酒造」
「國稀酒造」は、明治15年創業の北海道で一番古い造り酒屋。旭川の「男山」と並ぶ北海道の双璧だ。
「駅STATION」のロケ地にも使われており、お酒を飲まない人でも楽しめる。
社屋は大正7年に建て直された木造2階建ての事務所棟と、明治38年から10数年かけて建てられた、石造りの文庫蔵や酒造蔵などの建物群で構成され、蔵の内部は見学できるようになっている。
また利き酒コーナーや売店もあり、特に日本酒が飲めるファンにはお勧めだ。
増毛町の車中泊事情&車中泊スポット
最後はクルマ旅専門家らしく、増毛の車中泊事情と車中泊スポットを紹介する。
増毛には以前から2つのキャンプ場がある。
写真は1台4000円の区画電源サイトを持つ「増毛リバーサイドオートキャンプ場」だが、内容からしてここは、札幌や旭川からマリンレジャーを目当てにやってくるファミリーを意識しているようだ。